第六章 蝶を優しく包み込む

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 婚姻契約書の別記には、慰謝料のことが入っていた。  普通なら、被害者の一人である英彦が、美那から慰謝料を受け取る形だが、前日思ったように、もらうつもりはない。  美那の攻撃対象は佳織だから、被害者は姉になる。英彦は巻き込まれただけだ。なので不服はあるが、傷ついていない。  この状況で受け取ったら、逆にバツが悪くなりそうだ。  時間を掛けてゆっくりと確認した英彦は、弁護士に指示した。  「うん、これでいい。印刷してくれ」  打ち込んだ書類を即座に全員で承認するわけだが、前日に見本を作っていたようで、ほぼ問題がなく、この人間を顧問弁護士として任せただけはある。  印刷した書類を佳織に読んでもらう。  当事者の彼女は、自分に関する書類を読む義務と権利がある。  彼女に不利にならないように注意して作成したが、佳織には不安だろうから、声を掛ける。  「佳織さんに迷惑を掛けない形ですから、ご安心ください」  「信じてますから、何も心配してないです」
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