第六章 蝶を優しく包み込む

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 心からの信頼を感じると、結婚を無理に押さなくて良かったと思う。  弁護士から雇用関係終了に関する書類を渡されると、佳織は真剣に読み始めた。  水野珈琲(コーヒー)のために努力してきたことが、この書類ですべてなかったことになるのだから、特別な感慨があるはずだ。  しかも、自分を敵視する妹の策略で、次期社長の立場も婚約者も奪われた。  央司(おうじ)に対する感情は分からないが、水野珈琲を()めることは(つら)いだろう。  なので、退職後の行動は完全な自由を保証した。  ノースランドに入ってほしいし、先程はそう言ったが、水野珈琲のライバル企業で働いても大丈夫という条件になっている。  おそらく佳織はライバル会社に転職しないだろうが、可能という状況は気分的に違うはずだ。  自由になったと実感してほしいと、英彦は願った。  そして退職金は勤務年数に対して破格だ。佳織は五年ほど勤めたくらいなので、普通の退職ではそれほどの金額にはならない。  だが、佳織からは意に沿わない退職になる。
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