第六章 蝶を優しく包み込む

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 密会するほど一緒にいたい相手なら、結婚が決まれば喜べばいいのにと英彦は皮肉に思ったが、二人の表情は不満が(あら)わだ。想像したとおりらしい。  「不満があるなら、異議を(とな)えても構わない。  そして先に言うが、二人の婚約披露や挙式に、私と佳織さんは欠席させてもらう。  慶事(けいじ)だから祝うようにと圧力を掛けられても迷惑だし、事実を正直に明かすのも問題だろう。  気づかっての欠席と認識してもらいたい」  英彦はともかく、佳織をそんな場所に連れていけない。  多少、不穏当なやりとりはあったが、央司(おうじ)と美那はなんとか婚姻契約書にサインと印鑑を押した。  央司の印鑑は、母親が持参したもの。  息子がサインを嫌がって、印鑑がないと逃げることを防ぐためだ。  両親や英彦の予想どおり、央司は印鑑がないことを理由に先延ばししようとした。  だが母親が実印を差しだしてくると、恨めしそうな視線を向けたが、行動には責任が(ともな)う。  一時の快楽を選ぶから大切な存在を失うのだと、英彦は弟の情けない姿を見ながら思った。
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