1人が本棚に入れています
本棚に追加
「ユーナ、ご飯よー?」
「今日はいらない。」
「え!どうしたの?」
「私、王子待ってるから」
「はあ?」
少し肌寒い秋の終わり。まだ見習い商売人の私は、お母さんと交代でお野菜を売っていた。
最近新しい常連さんができて、なんでもお城のメイドさんだとか。
その人は最近メイドという仕事に付いたばっかりでこの前までは隣の国で暮らしていたらしい。私と歳も近いから仲良くなったんだよね。
そんなある日、そのメイドさんがいつもの時間にやってきて、
「いつもの、いただけますか?」
「もちろんです!数も同じですか?」
私もいつも通り、笑顔で答えた。
「はい。数も同じでお願いします。」
「少々お待ち下さいね。」
私はメイドさんに会えるのをいつも楽しみに待っていた。
だって、きれいな髪ときれいな笑顔を見るとなんだかお城の景色が見れたみたいで面白かったから。それに、最初は作り笑顔みたいで顔は笑ってるのに、目がなんだか寂しそうで、無理して笑ってるのかなって思ってたけど、私が笑うことを心がけていたり、少し冗談を言ったらだんだん嬉しそうに笑ってくれるようになって、その笑顔を見るとこっちも嬉しい気持ちになって。
あの時間が、いつも楽しい。
私はお野菜を紙袋に詰めて、うちの店のロゴが入ったシールで開け口をとめた。
「はい、580コルです。」
メイドさんはお財布から取り出したお金を私に渡しながら、急に変なことを言い出した。
「…あの、少しお願いしてもいいですか?」
「はい、何でしょう?」
「もしお城の方がここにいらしたら、これを渡してもらえませんか?」
メイドさんは、さっき私が渡した紙袋を私の前に置いた。
「お城の方がいらっしゃらなかった場合、これをお城に送ってください。」
私は「いいえ。」とは言えなかった。せっかく仲良くなれたメイドさんから初めてお願いされたことだし、そこまで難しいことではなかったから。
「分かりました。もし、お城の方がここに来られましたら渡しておきますね。」
「ありがとうございます。」
メイドさんはホッとしたように肩をなでおろし、一礼してこの場を立ち去った。
最初のコメントを投稿しよう!