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私は商売をしながらお城の人を待った。
五分後、一人のお客さんが息を荒くしながらお店の前に駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫ですか⁉」
私はお客さんのところに行って、思わず「あっ」と声を上げてしまった。
この前、新聞にのっていた……この国の王子。たしか、ヨネ王子だったかな。
王子がどうしてここに⁉と思ったとき、ふとメイドさんとの話を思い出した。
――「もしお城の方がここにいらしたら、これを渡してもらえませんか?」
(渡さなきゃ!)
王子に会えたことは光栄だし、握手だけでもしておきたいけど、それはメイドさんとの約束を果たしてから。
息を整えた王子に私が声を掛ける前に、王子自身が口を開いた。
「ここに、メイドが来なかったか?」
「えっ」
突然の質問に少し戸惑う。
「はい。常連客のメイドさんが一人。そのとき商品を買ってくださったんですけど、もしお城の人がここに来たら商品を渡してほしいと言われました。あなたは、ヨネ王子……ですよね?」
「ああ。」
間違えるわけないけど、一応違ったら失礼だから聞いてみた。
王子は短く返事をして、少し戸惑うように紙袋をながめた後、再び私に向き直った。
「これ、後で取りにくるから預かっといてもらえないか?もし俺が取りに来るのが遅すぎたら、城に送ってくれ。」
「ええ⁉」
同じようなお願いにびっくりして声が出る。
あと一時間ほどでお店の閉店時間。
正直、王子がここに戻ってくるかどうか不安だった。
でもこの国の王子の頼みごとを断るわけにはいかないし……。
返答に悩んでいると、王子が私の前に何かを握る手を差し出してきた。
「これで一時間。」
開かれた手の中には1万コルが顔をだしていた。
「えええ⁉」
「なんだ、まだ足りないのか。」
驚く私を前に、ポケットに手を入れる王子。
「いえ!そんな大金受け取れません!」
「いいから。商売で大変なはずなのに頼みごとをしてるんだ、これくらい受け取って貰えないとここの店に顔向けできない。」
いいながら王子は私の手を取り、1万コルを握らせた。
たしかに夕方はお店のお客さんが増えて忙しくなる時間帯で返答に戸惑った。
この店がお城にお世話になっていることも確かだし、お城のお野菜をこの店から出していることも多い。
もし王子が戻ってこなかったとしてもお城に送ればいいだけだし、待っている間商品は冷蔵庫に入れておけば問題はない。
それに、今の王子の目には強い意志があって信じようと思える。
「わ、分かりました。王子が取りに来られなかった場合、お城に送っておきますね。」
「ああ。助かる。」
いまだに握られている手にドキドキしながら思い切って言ったら、王子は少し表情を緩めて手を離した。
「それで、クロエ…メイドがどっちに向かって行ったかわかるか?」
「ええと……あっちの方に向かっていきました。」
「そうか。ありがとう。この礼は必ずする。」
そして王子は私が指を指した方向に向かって歩きだそうとして、足をとめた。
「あんたの店の野菜、美味しいから朝昼晩の食事に出してもらえないか頼んでみるよ。」
王子がお店のお野菜を褒めてくれた。それだけでも嬉しいけど、その時の王子の笑顔は私が見た、どんな王子よりも、ずっと輝いていた。
「ありがとうございます‼」
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