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再会。そしてあの日の出逢い
茹だるような暑さの中、陽炎がゆらゆらとアスファルトの上に揺れている。都心の大きな交差点、信号が青になり、一斉に人々が歩き出す。
大学二年の夏は、例年以上に酷暑だった。
日避けの為の帽子さえ暑苦しい。一度外して被り直した時、唐突にそれは視界に入り込んで来た。
早足の上に、その高すぎる上背故に長い足の一歩は大きい。僕の横を過ぎると、あっという間にその後ろ姿は遠くなっていった。
颯祐!
颯祐に違いない!僕は咄嗟に走り出し、無我夢中でその後ろ姿を追いかけた。脱げそうになった帽子を手に取り、ぐしゃりと鷲掴みにして、人の波をかき分けて、見失わないように、必死に颯祐を追った。
遠くから見ても頭ひとつ飛び出ている、颯祐の高長身が幸いした。
「颯祐っ!」
堪らずに叫んだ。
周りの人々が振り向く中、ゆっくりと颯祐も振り向いた。
「漣…」
おそらく口元はそう呟いていた。
颯祐が立ち止まったので、急いで駆け寄った。
「颯祐!東京に戻って来ていたのか!?」
僕は、驚くやら嬉しいやらで、思わず颯祐の両腕を掴む。
「漣…」
颯祐の顔が、強張ったのが分かった。
こんなにも颯祐を待ち焦がれていたのに、会いたくて堪らなかったのに、そんな顔をしないでくれ。
掴んだ腕の力が、少しずつ緩んで颯祐の腕から離れると、颯祐は力無く笑った。
◇◆◇◆◇
僕が颯祐に初めて会ったのは、小学一年生、夏休みに入ってすぐの事だった。
「漣、今日から颯祐君が一緒に遊んでくれるわよ」
母親が紹介する。
離れに住み込みで働くという家政婦さんが、男の子を連れて僕の前に立った。僕より二歳年上で三年生。颯祐はとても端正な顔立ちをして、三年生とは思えない程に上背もあり、ニコリともせずに睨む様に僕を見ていた。
僕は、あまりに綺麗な颯祐の顔に、小さく口を開けたまま、じっと見つめていた。
「漣君、成瀬祐実と言います。こちらは颯祐、よろしくお願いしますね」
颯祐のお母さんがにっこりと笑いながら、手を添えて颯祐の頭を下げさせた。
添えられて下げられた頭をそのままに、颯祐は身動きひとつしなかった。
『天海学園』
中高一貫校の私立学校。その理事長が祖父で校長が父親。母親は数ヶ月前から書道家としてまた活動を始め、家の事や僕の世話を手伝って貰う為に家政婦さんをお願いしたらしい。
「ちゃんと、祐実さんの言う事を聞くのよ」
母親が言い聞かせるように、それでも微笑んで僕の肩を抱いた。祐実おばさんの優しい笑顔の隣りで、颯祐は僕をジッと見つめていた。
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