想いが募る

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 颯祐の唇が離れた瞬間、僕は何故だか涙が(こぼ)れた。不快な感情など一つもない、なのに涙が溢れてしまい、颯祐に申し訳なく思ってしまう。 「ごめん」  颯祐が謝った。  謝らないで、僕はそう言葉にしなければいけないのに、溢れる涙をそのままに、何も言えずに颯祐を見つめた。 「帰ろう」  颯祐はズンズンと歩いて、すぐに遠くになってしまった。急いで颯祐の背中を追う。 「…待って」  漸く出た声は、涙声だったと思う。  それでも颯祐は大股で歩き、僕との距離が離れていく。 「待って!」  堪らずに大きな声で颯祐を呼び止めた。  颯祐はぴたりと止まり、追い付いた僕は後ろから颯祐に抱きついた。 「だから、ごめん…て」  声が、颯祐の背中に響いて聴こえた。 「謝らないで…お願いだから謝らないで…」  謝られてしまったら、さっきの事は『いけなかった事』になる。颯祐の唇が、僕の唇に触れた事…キス?が、許されない事にされてしまう、そう思って僕は、颯祐に抱き付いた腕の力をギュッと強くした。  次の瞬間、颯祐は振り返ると僕を抱き締めた。僕の頭は、背の高い颯祐の胸の中にすっぽりと入って、頭の後ろと腰に手を回して優しく包み込むように抱き締めてくれた。  僕は、夢中で颯祐の背中に腕を回す。離れたくない、颯祐とずっとこのままでいたいと、僕の心はそう叫んでいた。 ✴︎✴︎✴︎ 「夕飯は?」  帰ると母親が訊いてきた。 「食べてきた」  素気ない、そんなひと言しか言えなかった。夕飯は食べていなかったけれど、お腹なんかちっとも空いていない。僕は颯祐とのキスで、心も思考も宙に浮いていた。 「お風呂入って寝るね」  無表情に棒読みで言った僕を、母親は怪訝な顔で見る。悟られてはいけない、咄嗟にそう思って 「颯祐と夕飯食べてきたから!お風呂入って寝るね!」  既に分かっているだろう事実を、元気にただ復唱しただけだったが、母親はフッと 「おやすみなさい」 と、笑って言った。  浴槽に浸かりながら、ぼぅっと颯祐とのキスを思い出す。手を握り締められて唇が触れる…。  下半身がむずむずしてきて、僕は勃起してしまい、どうしていいか分からなくて無意識に硬くなったペニスを握り、上下に少し動かすと、「ふぅん…」と小さく声が出てしまい自分で驚いて手を離した。    朝起きると下着が濡れている事があった。時間が経つとカピカピに固くなってしまうので、下着を替えて、家族に気付かれない様に自分で洗って洗濯機に入れていた。調べると『夢精』だという事が分かる。このままだと、明日の朝も下着を洗う事になってしまう、嫌だったし、硬く大きくなったモノをどうにかしたい欲望にかられる。  浴槽から出て洗い場に膝を突くと、縁に左手を置いて身体を支え、僕は硬くなった自分のモノを右手で夢中で扱いた。颯祐とのキスを思い出しながら…。声が聞こえない様に、シャワーの勢いを強くする。    ハァハァと、荒い息とともに出た白濁の液が、出したままのシャワーのお湯で流された。    初めてオナニーをした。  気持ち…良かった。  颯祐も、こんな事をしているのだろうかと、そんな事が頭を過った。
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