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切ない恋心
その日の夜、颯祐からメールが届いた。いつもと変わらない、『おやすみ』の文字とスタンプ。今日の事にはひとつも触れていなかった。
『今日は楽しかった』と、送ったら颯祐はどう返してくれるのだろう、そんな事をふと思ったけれど
『おやすみ』
と、僕もひと言だけのスタンプを送る。
さっき、風呂場であんな事をした。いけない事をしてしまった様な気持ちになり、酷く心がズンッと重くなったままベッドに入ったが、すぐに寝入ったようだ。
今日は色々な事があり過ぎて、本当に疲れた。
何だか颯祐と顔を合わせるのが恥ずかしくて、確実に家を出ただろう時間を過ぎてから、僕は家を出た。
あまりに驚き過ぎて、昨日は冷静に考える事が出来なかった。
あれは『キス』だよね?
僕はあの時の流れを、何度も頭の中で繰り返した。どういう意味なんだろう、颯祐も僕を…僕と同じ気持ちを持ってくれているの?分からない、余計に胸が苦しくなった。
皆が憧れた颯祐と、僕はキスをしたんだ、颯祐の手が僕の身体を優しく抱き締めた。そう思うと、僕は何だか特別になった気がして、何となく胸を張って歩いた。
沈んだり弾んだり、僕の心は大忙しだ。
あれから颯祐は、僕を避けている様に思えた。颯祐からの連絡を待っているけれど、何も来ないし、夜の挨拶も朝の挨拶のメールも送ってくれない。どうしたんだろう、酷く不安になる。自分からメールを送ろうかとも思ったが、何も返信が来なかったらどうしよう、と二の足を踏んだ。
何日もそうしていたかと思ったが、メールが来なかったのはほんの二日間の事で、それでも僕には何年にも思える程に長く感じた。
夜、思い切って電話をしてみようかと思った。今の時間ならきっと、夕飯もお風呂も終わっているだろう。
『颯祐』の文字が浮かぶ、スマホの画面を見つめてドキドキする。
今までだって何度も電話で話しをしているのに、どうしてこんなに緊張してしまうのだろう、いつも通りにタップすればいいんだ。自分にそう言い聞かせるけれど、勇気が出なかった。
そんな風にモタモタしていたら、ブーブーッと僕のスマホが着信を知らせる振動を起こした。
画面を見ると『颯祐』で、僕は飛び上がるほど驚いて、あまりの驚きにスマホが手から落ちそうになり、ジャグリングをしているみたいになった。漸く堪えて、その勢いで応答をタップした。
「あ、漣?」
颯祐の声はいたって普通だった。
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