切ない恋心

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「颯祐、『天海』に僕は行けないみたいだ」  颯祐の家の居間で、出してくれたスナック菓子を食べながら項垂れて言うと、僕の頭を撫でて 「漣は違う高校に行けよ」  簡単に言われた様で、僕は少し不愉快になる。 「僕が天海に来ると思わなかったの?来たらいいって、思わなかったの?」  唇を噛んで、悔しそうな顔をした。 「理事長の孫で校長の息子が生徒で来たら、先生達はやりにくいだろ。それに、今の状況も悪くないじゃん」  幼い頃の様に、毎日顔を合わせている訳ではないけど、たまに会って沢山話しをしたり、出掛けたりしている。メールの交換は、毎日の様に出来ている。これ以上何を望むんだ、と言われている様な気がした。  それでもただの幼馴染でしか、颯祐にとって僕はそれでしかないのに。  あの時のキスは、颯祐の気まぐれだったのだろうと思う。誰かとそんな事をしたくて、ただ僕にしただけなのだと、僕はそう思うようにした。  好奇心いっぱいのあの頃は、そんな事もあったね、と笑える日が来るのを待つ事にした。  …そうでも思わなければ辛かった。  今の状況も悪くない、と颯祐は何を以て言っているのだろう。  それでも僕は、颯祐を思いながら自分を慰めている。颯祐は誰を思って、何を思ってシているんだろう、訊きたい。  彼女の話しも聞かない、どう、処理をしているのだろう、シてない、なんて事はないよな。颯祐を目の前にして、如何わしい疑問を持ってしまった。少し恥ずかしい。 「颯祐、誰かと付き合ったりしないの?」 「ええっ?何でそんな事訊くんだよ」  笑いながら颯祐が言う。 「だって颯祐はモテるでしょう?」 「ん?ん…そんな事ねーよ」  そんな事ある答え方だった。 「誰かと付き合った事、今まで無いよね?」 「うーん、何か面倒くさいじゃん」  そう答える颯祐を、冷ややかな目で見たいた様で 「何だよ!漣こそ、どうなんだよ!」  片唇を上げて、逆に訊かれてしまう。 「お前、可愛い顔してるし、女子にモテるだろう?」  可愛い顔!?  颯祐はそう思ってくれているの?  ちょっと胸が高鳴った。 「モテないよ」  それでも不貞腐れて答えた。僕は颯祐の様に、面白い事言ったり、目立つ事なんて出来ないもん、僕の事なんて誰も気にしてないよ、そう思いながら完璧過ぎる颯祐をチラリと見て、またドキドキした。 「いいじゃん、天海じゃなくても」  その声は寂しそうに聴こえた。何も言えずに颯祐を見つめていると、続けて言った。 「俺、来年は大学受験になるし…」  その先を言わなかった颯祐に、少し不安は過ぎった。 「どこの大学を受験するの?」  何気なく訊いた、その答えに僕は絶望的な気持ちになる。 「…九州の大学を受験する」
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