切ない恋心

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「九州!?」  思わず大きな声を出した。 「どうして!?どうして九州なの!?」  僕は狼狽して颯祐に詰め寄った。 「うん…やりたい事がそこの大学で出来るからさ」 「やりたい事って何!?東京じゃ出来ないの!?」  僕は半狂乱に近かったかも知れない。颯祐の肩を強く掴んで前後に揺らした。 「漣、痛い…」 「ごめん…」  我に返って、掴んでいた手は離したけれど、納得なんて1ミリもしていない。 「じゃあ、僕も九州の高校に行く」  訳の分からない事を言って颯祐を困らせた。 「漣の高校受験の方が先じゃん」 「先に行って待ってる!」 「一人で暮らすのか?」  颯祐は、出来っこない事が分かって半分笑いながら言うから、余計に頭に血がのぼった。 「なんでそんな事、一人で決めるの!?」  自分で言って、おかしいのは分かっていた。颯祐の将来だ、僕が口を出すことではないし、僕に相談なんて論外なのは分かっている。 「ごめんな」  それでも颯祐は謝るから、僕は何も言えなくなるし、怒りや悲しみの遣り所が無くなってしまう。 「もう、決定なの?」  涙が滲んだ。 「ああ」  胸がズキンと痛んで、何も考えられなくなった。嘘ならいいのに、冗談だよって笑って言ってくれたら、今なら怒らないから。だから、ドッキリだと言って、僕を驚かせてよ…。 「まだ二年近くあるじゃん、今からそんな顔すんなよ」 「二年しかない…。ずっと颯祐と一緒だったんだよ、颯祐がいなくなったら、僕はどうすればいいの?」  滲んだ涙は溢れる程に増えて、頬を伝った。 「大丈夫だよ、漣なら」 「何が大丈夫なの?颯祐がいない毎日なんて考えられないよ!」  堪らずに、颯祐の胸の中に飛び込んでしまった。胡座を掻いて座っていた颯祐は僕に押されて倒れそうになり、畳に手をついて体勢を保つ。  ふっと、キスをした時の事を思い出す。颯祐の胸に顔を埋めて、擦り付けた。 「漣、分からない事言うなよ」  戒めるように言われて、止まらない涙を腕で拭くと颯祐から離れた。  颯祐にとって、僕の事は本当にただの幼馴染で、僕が思っているようにいる訳ではない事を、颯祐の態度で思い知らされた。あのキスは何だったの?そう訊きたい気持ちを抑えて、 「ごめんなさい」  『天海』に行けないと、話した時以上に項垂れた。 「九州の大学で何するの?」  項垂れたまま元気無く訊くと、僕の頭を撫でながら 「絵の事、教わりに行くんだ」  優しい目で答えた。 「東京じゃ教われないの?」  まだ諦めきれなかったりした。 「うん、教えてくれる人、九州にいるんだ」 「…ふぅん」 「遊びに来いよ」 「…うん」  チラリと颯祐を見て、小さく頷いた。  もう、どうしようもない事なのだと頭では分かっていても、心が付いて行かなかった。
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