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本当に颯祐なの?
学校ではあまり仲の良い友達は出来なかったけれど、塾では友達が出来た。同じ大学附属の高校を受験する、隣りの区に住む子で、どこか颯祐に似ている所があるような気もした。
「じゃあね、また来週!」
仲良くなった子に手を振って別れて、身体の向きを変えると、そこに颯祐がいた。
「誰?友達?」
「颯祐!バイトの帰り?」
「ああ、バイトの時間、三十分延ばしたから一緒に帰ろう」
「カラオケとか、行けばいいのに」
僕がそう言うと、颯祐は何も言わずにジロっと僕を見た。正直、怖かった。颯祐にそんな顔をされた事はない。ちょっと冗談で言ったつもりだったけど、やっぱり嫌味になってしまったかな、と反省する。
「あ、うん、同じ高校を受験するんだ」
「ふぅん」
「受験、もうすぐだからね。冬の合宿は一緒に行くんだよ」
「合宿?」
「う、うん…一日勉強だって、ちょっと嫌だけどね」
颯祐の顔が怖くて、おどおどして話した。
「嫌なら行かなくていいじゃん」
今度はギロッと僕を見た。
「でも、受験生は全員参加なんだよ」
何故だか颯祐の機嫌をとる様に話していて、何も答えない颯祐の後ろを歩いた。
何も会話が無くて、ただ二人で前後して歩いていた。何だよ、勝手に颯祐が待ってたのに、どうして僕が機嫌とらなきゃならないんだよ、面白くなく歩いていると、突然颯祐が止まって振り向いた。
え?今思った事、分かっちゃった?
僕は一瞬ドキリとした。
「ありがとう、待っててくれて」
反射的にお礼を言ってしまった。
「俺、さっきの奴に嫉妬してるかも」
え?さっきの奴?塾の?なんで?僕の頭の中は混乱した。それだけ言うとまた前を向いてズンズンと大股の早足で歩くものだから、僕は追い付くのがやっとで、少し息が上がってきた。
「ま、待ってよ颯祐」
何だか僕は「待って」とばかり颯祐に言っている気がする。そんな事を考えながら後を追っていたので颯祐が止まった事にも気が付かないで、背中に思い切りぶつかった。
「痛っ!」
顔を背中にぶつけて、ちょっと鼻が痛い。鼻をさすっていると、振り向いた颯祐が
「どこぶつけた?」
またキスをされそうな距離で、さすった僕の腕を掴んで「ごめんな」と頭を撫でた。
やめて欲しい。
どうして颯祐はそうやって、僕が決心した『独り立ち』を邪魔するんだ、そう思った。
「だ、大丈夫。よく前を見て歩かなかった僕がいけない」
そう言いながらも、何で僕が謝るんだと少し納得はいかなかった。
「ううん、漣は何も悪くない。俺が悪い、ごめんな」
トロける様な顔で僕を見る颯祐。
『独り立ち』出来ないじゃないか…そう思い、顔が熱くなって目を逸らした。
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