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翌朝、僕は周りの全ての物が輝いて見えた。
颯祐と両想いになった実感を味わって、一人キッチンでトーストを焼いていた。昨夜の事を思い出して、恥ずかしくも思ったけれど、嬉しくてふふっとニヤけてしまう。
「おはよう!漣くん!」
「祐実おばさん、おはようごさいます!」
母親が地方に行っていないので、今朝は早く来てくれたようだったけど、颯祐の顔が浮かんで顔が真っ赤になってしまった。
「漣君、どうしたの?具合悪い?熱ある?顔が真っ赤よ」
傍に来て僕の額に手を当てた。
「だ、大丈夫!颯祐は?もう家を出たの?」
「ええ、さっきね。お母さん、今夜帰られるみたいで良かったわね」
颯祐が家を出たのは『行ってきます』とメールが来たから分かっていたけど、知らない振りして祐実おばさんに訊いた。
「うん、お母さんからメールが来たよ僕にも」
何だか汗だくになって話す。
「やっぱり、熱があるんじゃない?」
眉間に皺を寄せて僕の傍に来て、祐実おばさんは心配そうに僕を見た。
「本当に大丈夫だから!」
トーストしたパンを口にくわえて、僕は急いで家を出た。こんな、漫画みたいなシチュエーションって本当にあるんだな、と思いながらパンをかじって早足で学校に向かった。
「天海君、おはよう!」
塾で一緒だった加藤君が、僕を見つけて挨拶をくれた。
「加藤君!おはよう!」
僕は満面の笑みで加藤君に応える。
「何かいい事でもあったの?」
「なんで?」
「なんか、嬉しそうな顔してる」
加藤君が笑顔で僕に訊いた。
「な、何も無いよっ!」
目がギラギラで冷汗を掻きながらの、今の答え方は自分でも不自然だと思った。
「そうだ加藤君、僕、部活にはやっぱり入らないかな」
「そうなの? せっかくの高校生活、勿体無くない?」
僕には颯祐との時間が大事で、一分一秒でも一緒にいたいんだ。心の中でそう答えた。
「今、とても大事な事があるから」
「ふぅん、そっか、天海君には何より大事な事があるんだね、なんか羨ましいなぁ〜」
「うん!」
颯祐の傍にいられるのは、もう一年もない。思うたびに酷く胸は痛んでしまう。
颯祐のバイトの日以外、僕達は学校から帰ると、その時の状況で颯祐の家だったり僕の部屋だったりで、いつも一緒にいて、キスを重ねた。
「颯祐」
「ん?」
「キスと、口だけじゃなくて…」
逢うたびにではないけれど、たまに口でシたり、互いのモノをお互いの手でシあったりしていた。
「僕、颯祐と繋がりたい」
動画などを見て、その先もある事は知っていた。でも颯祐は求めて来なくて、我慢出来ずに僕から言ってしまう。
「うん…」
颯祐が困った顔をした。
「今、こうしているのも、本当は駄目だと思ってる。ごめんな、漣に悪い」
「どうして?どうして僕に悪いの?僕はもっと颯祐が欲しい」
颯祐の股間に顔を埋めようとすると、顔を手で押さえて、
「いいよ、今日は」
顔を強張らせる。
「いやなの?」
「そういうんじゃない」
「じゃあ何?」
この顔をすれば、颯祐は何でもいう事を聞いてくれる、それが分かっていて、僕はその顔で颯祐を見つめた。
「…漣…」
僕の頬を撫でる。
上目遣いで目をくりんとさせて、少し唇を尖らせる。その顔で見ると、いつも颯祐は「分かった分かった」と言って、仕方ないなぁと笑いながら、僕の言う事を聞いてくれるのに…
この時はこの顔も通用しなかった。
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