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部屋を片付ける為に、祐実おばさんも一緒に九州に向かう。母親が空港まで見送りに行くからと、僕を誘ったけれど、きっと号泣してしまうから辛すぎて行けなかった。友達と約束があると嘘をついて、結局部屋でずっと泣いていた。
壁に飾った二枚の絵。
どちらも、颯祐に向けた笑顔なのが分かる。
ずっと、こんな笑顔で暮らせていたなんて、幸せ者だなと思い、僕はいい加減、涙を拭いて笑顔になった。
颯祐が九州に行ってしまって、半月過ぎようとしていた。
颯祐は大学に進学し、僕は高校二年生に進級した。忙しい中、颯祐は約束通り毎日電話をくれた。
好きだよ、とか愛してるよ、とか電話だと何だかすんなり言えるし、颯祐も言ってくれて嬉しい。
一人暮らしで、やりくりだって大変なんだろう、来週からアルバイトを始めると言っていた。そうそう、僕はと言えば、やはり酷い反対に遭い、アルバイトが出来ない事を告げると、颯祐はホッとした声を出した。
「ダメダメ、漣がアルバイトなんて心配で堪らない」
「何で?僕だってアルバイトくらい出来るよ」
「漣は可愛いから、誰かに付き纏われるんじゃないかって心配」
え?そういう心配?僕は紅潮した。
そんな事言うなら、颯祐なんかもっと心配だよ!と我に返る。
「ねぇ、颯祐、浮気しないでね」
甘えた声が出てしまった。
「可愛い声で言うなよ、恋しくなるだろ」
「早くそっちに遊びに行きたい」
「ああ、俺も早く逢いたい」
そんな風に毎日が過ぎ、颯祐のアルバイトが始まると、毎日の電話も途絶えがちになり、颯祐が「ごめん」と申し訳無さそうに謝る。
「忙しいんでしょう?仕方ないよ。その代わり、僕がそっちに遊びに行った時は沢山、構ってね」
颯祐が大笑いをして、分かったと承諾する。
出来れば、大型連休に遊びに行きたかったけれど、僕の方が都合が付かなくて断念した。もう、二ヶ月近く会っていない事になる。
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