再起

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再起

「漣……」  ダイニングテーブルの椅子に座っていた母親の顔は、酷くやつれていた。  フラフラになって僕に駆け寄ると、泣きながら強く抱き締めた。 「お母さん、ごめんなさい……」 「いいのよ、いいのよ」  そう言って、母親はただただ泣いた。  僕は一ヶ月の間、部屋に引き籠もっていた。母親には何年にも思えただろう。入浴は、家に誰もいない時にしていたから、それほど見苦しくもなかったと思ったが、人目に晒されないのが、これほど外見に緩みが出るのかと鏡を見て自分で驚く。会える訳では無いけれど、颯祐に恥ずかしいと思った。 「漣君っ!」  祐実おばさんも、僕に駆け寄って抱き締めると背中を撫でた。僕は、たくさんの人に心配をして貰っていた事に深謝をしなければと、そう思った。  その日は父親も早く帰り、親子三人で夕食を囲んだ。僕が引き籠もっている時に、祐実おばさんが辞めて颯祐の所に行くと言われて困ったと、母親が話した。祐実おばさんへの信頼は何物にも変えられない、何とか説得して引き留める事が出来たと、そう話していた。  僕が独りになっている間に色々あったんだ、と思い知らされる。  週明けから、学校に復帰する事を決めた。加藤君も喜んでくれたけれど、やはり緊張する。学校へは体調不良という事で、休みを届けていたが、周りはどう見るだろうかと、気に病んだ。 「天海ー!久し振りじゃん!」  加藤君は、僕のクラスと階が違うのに、クラスの扉まで一緒に来てくれた。そんな風に声を掛けてくれる人もいれば、ヒソヒソと話す人もいる。気にしては駄目だ、身体中がピリピリとした。 「どうしてたん?一ヶ月も休んで〜」  揶揄う様に言う同級生に、 「ちょっと、やる気無くして休んでた」  サラッとそう言うと、一瞬皆が固まった空気が、何だか途轍もなく心地良い。 「でも、追い付く、というか追い越すから」  通っているのはそれなりの進学校で、ひと月勉強しなかったのはかなり厳しい。それでもそう言って、僕はにっこりと笑って見せると、皆、目を逸らして何事も無かったかの様な顔をした。    とても、気持ちが良かった。  そう言った手前、学期末の試験は何としてでも成果を出さなければならないと思って、必死になり、結果、学年トップを取り、誰にも何も言わせなかった。  そんな風に必死になる事で、僕は颯祐の事を考えずに済んで助かった。そうか、卒業するまで学年トップ、これを目標にしよう、そうすれば何も考えなくていい、そう思ってひたすら勉強をした。 「え?」 「天海君、好きです。付き合ってください」  何度か告白もされた。でも、僕は颯祐を忘れられない。颯祐に愛された瞬間を思い出すだけで、僕の身体は熱くなった。 「ごめんなさい」  と、何度言っただろう。  僕でこんな風なんだ、颯祐はどれだけだったのだろうかと、思いを馳せた。  
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