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「この間はありがとう」
学食で窓に面したカウンター席に座り、カツカレーを一人で食べていると、加藤君が同じくカツカレーを持って「ここいい?」と、空いている隣の席を顎で指した。
「あ、カツカレー、一緒だ」
笑いながら言った加藤君が隣に座る。加藤君の好きな女の子と、その友達と四人で食事をした。そのあと告白をしたらしく、どうだったのだろうと気になったが、僕からは何だか訊けない。
「天海君…」
少し落ち込んでいる様に見える。駄目、だったのかな?何て言おうか考えていると、
「OK貰った!付き合う事になった!」
突然、満面の笑みで嬉しそうに話す加藤君にしてやられたが、僕も自分の事の様に嬉しくて「おめでとう!」と、加藤君の背中をバンバンと叩いた。
「いった!痛いよ!」
痛がっているけれど、凄く嬉しそうだ。
「でさ、この間のご飯の時に彼女と一緒にいた子、分かる?」
「もう『彼女』とか言っちゃって!」
僕は加藤君を冷やかした。
「何だよ、やめろよ天海君。聞いてよ!」
「あーごめん、何?」
「一緒にご飯食べた子、あの子が天海君を好きになったみたいなんだ。どうかな?」
あ…言葉に詰まってしまう。
「天海君に、ずっと想っている人がいるのは知ってるんだけどさ…」
チラリと僕を見る。僕にその気は全く無い、どう言って断ればいいだろうかと言葉を探していると、加藤君は続けた。
「あ、のさ…違ってたら本当に申し訳ないんだけど、天海君の好きな人って、中学の時の塾で、いつも迎えに来ていた颯祐さんって人?」
僕の心臓がドクンッと大きく脈打った。
学食の喧騒の中、暫く二人の間に沈黙が流れ、ガヤガヤ、カチャカチャと言う声や音が遠くに聞こえる。
「うん、分かってた?」
僕はそう答えた。
涙が滲んできて、また泣き虫の僕に戻ってしまい困った。
「やっぱりそうか。片思いって?颯祐さんも天海君を想ってるんじゃないの?」
普通に、何の疑いも嫌悪も示さずに加藤君が僕に訊いた。
「気持ち、悪くない?」
加藤君の顔は見ずに、少し俯いて僕は訊く。
「全然、そんな事ないよ。人を好きになるのに、性別は関係ないよ」
ぽろりと涙が溢れた。
初めてだった。颯祐の事を誰かに話すのは初めてで、胸の中の大きな重たい“しこり”が取れた気がした。
それから僕は、颯祐をずっと好きだった事、周りには隠して想い合っていた事、九州の大学に進学した颯祐と、突然連絡が途絶えた事を簡単に加藤君に説明した。
「そうか、それは辛かったね」
加藤君が、沈痛な面持ちで僕に言った。たったそのひと言で、沢山の思いが救われた気がして、また涙が溢れてしまった。
「ごめん、泣いたりして」
恥ずかしくて、頭を掻きながら涙を拭いた。
「ううん、そうか…彼女の友達には、天海君の事は諦めて貰うしかないね。話しを聞いてあげることしか出来ないと思うけど、俺なんかで良かったら話してよ」
嬉しかった。加藤君の言葉が嬉しくて、颯祐への想いも強くなる。逢える術はないけれど…。
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