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再会
加藤君とあれこれ、颯祐と連絡が取れなくなるまでの事や颯祐との日々を話すだけで、僕はとても心が軽くなって、幸せを感じた。
僕に遠慮をしているのか、加藤君は僕に彼女との事をあまり話さない。だから僕から話しを振ると、それは嬉しそうに、楽しそうに、幸せいっぱいで話す加藤君が、微笑ましい。
✴︎✴︎✴︎
「今日も暑いけど、明日はもっと暑いって」
加藤君が言った。
大学二年になった夏。
この年の夏は例年以上に酷暑で、毎日のように流れる『熱中症警戒』の文字にすっかり見慣れてしまう。
茹だるような暑さの中、陽炎がゆらゆらとアスファルトの上に揺れている。都心の大きな交差点、信号が青になり、一斉に人々が歩き出す。
日避けの為の帽子さえ暑苦しい。一度外して被り直した時、唐突にそれは視界に入り込んで来た。
早足の上に、その高すぎる上背故に長い足の一歩は大きい。僕の横を過ぎると、あっという間にその後ろ姿は遠くなっていった。
颯祐!
颯祐に違いない!僕は咄嗟に走り出し、無我夢中でその後ろ姿を追いかけた。脱げそうになった帽子を手に取り、ぐしゃりと鷲掴みにして、人の波をかき分けて、見失わないように、必死に颯祐を追った。
遠くから見ても頭ひとつ飛び出ている、颯祐の高長身が幸いした。
「颯祐っ!!」
堪らずに叫んだ。
周りの人々が振り向く中、ゆっくりと颯祐も振り向いた。
「漣…」
おそらく口元はそう呟いていた。
颯祐が立ち止まったので、急いで駆け寄った。
「颯祐!東京に戻って来ていたのか!?」
僕は、驚くやら嬉しいやらで、思わず颯祐の両腕を掴む。
「漣…」
颯祐の顔が、強張ったのが分かった。
こんなにも颯祐を待ち焦がれていたのに、逢いたくて堪らなかったのに、そんな顔をしないでくれ。
掴んだ颯祐の腕は、汗でじっとりと湿っていて、二人の情事を思い出させた。
掴んだ腕の力が、少しずつ緩んで颯祐の腕から離れると、颯祐は力無く笑った。
「颯祐、あの…僕…… 」
どうして僕はいつも泣いてしまうのだと、自分に滅入る。涙が溢れた。
「漣… 。なんで…」
なんで?
それは僕の台詞だろう。颯祐に訊きたい事は山ほどある。伝えたい事だって山ほどある。あれから三年も経っているんだ、逢えない颯祐を想い続けて三年、憎まれ口のひとつ位、言ってもいいだろう。
それでも僕は
「逢いたかった」
そう言ってボロボロと涙を流した。
「漣、ごめんな」
そうひと言だけ言った、颯祐の目にも涙が溜まっていた様だけど、涙で目の前が霞む僕には、颯祐の顔はよく見えない。
頭をぽんぽんと撫でるから、僕は幼かった頃の僕達に一瞬で戻って、颯祐の胸に飛び込み、声を殺して、ただただ泣いた。
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