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中学生になり、颯祐とまた一緒に学校へ通う事が出来て本当に嬉しかった。それでも、来年は高校生になる颯祐。こうして肩を並べられるのも僅かな時間だと思うと切ない。
夏休みを過ぎると、颯祐は進路先を決定した様で、「本腰入れて勉強だ」と少し背の伸びた僕の頭に顔を寄せた。ドキリとする。心臓がバクバクとしている。それを悟られない様に、サッと颯祐から離れて赤い顔をして笑う。
「どこの高校に行くの?」
「ん?『天海』」
「えっ!?」
あまりの驚きに、ひっくり返りそうになる。余計な事だろうが、私立高校なんて大丈夫なのだろうかと、祐実おばさんを心配した。
「特待生のクラス受験。合格すれば学費はタダだって、お前の親父さんから話を貰った」
僕の心配が伝わってしまった様で少し気恥ずかしく思ったが、颯祐からの話で納得出来た。
颯祐は勉強もいつも学年トップの、本当に非の打ち所がないスーパーマンで、母親である祐実おばさんも自慢の息子だろうと、そう思った。
「でも何だか母さん、あまり気乗りしないみたいで…」
珍しくしんなりとして話すので、僕は立ち止まって不安そうに颯祐を見つめた。
「どうしてだろう?」
「悪いと思ってんだろうな」
「誰に?」
「使用人なのにって、思ってるんじゃね?」
颯祐の口から『使用人』という言葉が出て、何だか酷く抵抗を感じたのを覚えている。
俯いたまま黙っていると、颯祐が笑って僕の頭をワシャワシャと撫でた。
「お前がそんな顔すんなよ!」
「でも、行くでしょう?」
颯祐が『天海学園』に通う様になるなんて、考えもしていなかったから、そう想像するだけでワクワクした。僕も高校は『天海』に行く!そう決めた。
「ああ、学費がタダなら母さんを楽にしてやれる。母さんが気乗りしてなくても、俺はそうしようと思ってる」
複雑な思いが胸を支配した。
自分は何不自由無く、金銭的には恐らくかなりの贅沢が出来る家に育っている。ついさっきまでのワクワクは消え去り、何だかバツが悪い気がして颯祐の顔が見れなかった。
「でも、『天海』に行ったら漣とは一緒になれないか…」
「え?なんで?」
「漣が中学受験するって話しの時に、『天海』は通わせないって、ウチの母さんと漣の母さんが話してるのを聞いた事がある」
確かに、その話は祖父と父親からされていた。違う私学を受験する予定だったが、颯祐と一緒にいたくて、祖父母と両親を説得して、颯祐と同じ公立中学に通っている。
「まぁいいか、家はすぐ側だし」
そう言って颯祐は笑ったけれど、「一緒になれないか」と言った颯祐の言葉が胸に響き、僕と一緒にいたいと、颯祐も思ってくれているのだと途轍もなく心が弾んだ。
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