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「僕は颯祐の事、一度だって忘れた事はないよ。逢えなくなって三年間、一日たりとも忘れた事なんてない」
唇を噛んだ。切れてしまうのではないかと思う位に、キツく唇を噛んだ。
「漣、もう忘れろ、俺の事なんか…」
何言ってんの!?何言ってんだよ! そう言って颯祐の胸ぐらを掴みたかったけど、人目があるから勿論、出来ない。
「颯祐は、僕の事はもう忘れたの?」
何て答えるだろう、固唾を呑んだ。
「… ああ」
嘘だと思った。颯祐だってまだ僕の事を想ってくれている、僕を見ない颯祐の目をみて確信した。
「出よう」
珍しく、僕が先導した。颯祐は少し飲み物が残っていて、グラスを取って僕が一気にストローで飲み干す。
「苦っ!」
そうだ、颯祐はブラックで飲んでいて、思わず口に出てしまった。
「ご馳走様でした」
訝し気な顔の颯祐は、僕に腕を引かれて立ち上がる。会計を僕が済ませて店を出て、また暑い炎天下の中二人で歩いた。
せっかく引いた汗が、またあっという間に噴き出してくる。なるべく日陰を探して歩こうと思ったが、太陽は一番高い時間で、日陰など無い。
「暑いね、茹だるね」
珈琲店に入る前とは違って、僕が話した。
「ああ、俺はもうホテルに戻るから、漣も家に帰れ、あ、コーヒー代…」
ポケットの中に手を遣った。その手を掴んで下から覗き込む。
「颯祐、抱いて」
颯祐が、生唾を呑み込むのが分かった。
「な、何言ってんだよ…」
明らかに狼狽えている。
颯祐の瞳を見た後、視線を下に流し唇を見つめて、唇を押し付けた。
「やめろよ…」
すぐに僕の肩を掴んで離したけれど、力は弱いし肩から手を外さない。
「ねぇ、颯祐、僕が欲しいでしょう?」
こんな事を言った自分に驚く。もっともっと颯祐の知らない僕を見せて、想いを取り戻すんだ、そう思った。
何も言わない颯祐の手首を掴んで引っ張り、僕は違う通りに進んだ。ホテル街。颯祐は足を止めて、「駄目だ」というけれど、強く言わない。だから僕は空き部屋のあるホテルの中に迷う事なく入って行った。
初めて入る。お洒落で煌びやかな室内に一瞬、二人して固まった。ローションもゴムも何でも揃っていて、「凄いね!」思わず目をキラキラさせて颯祐を見てしまった。
チラリと僕を見て、ため息をついた。
何だろう、今のため息…やっぱり嫌なのかな?僕とはもう、そんな気はないのかな?途端に不安になって下を向いた。
いきなり颯祐が僕の腕を引っ張ると、ベッドの上に仰向けに倒した。僕の上にのし掛かる、颯祐の顔がすぐ目の前にある。緊張してしまった。自分から誘っておいて、少し怯んでしまう。
「ほらな、偉そうな事言って、やっぱ漣は子どもだな」
颯祐は、ふふんと笑った。
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