649人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
今までにこんな風に聞き分けの無い事を言ったのは、公立中学に通いたいと言った事位で、自分で言うのも何だけれども僕は『良い子』だった。
母親は驚いた顔で僕を見た。
「ただいま戻りました〜」
その時、祐実おばさんが買い物から戻ってきて、リビングにいる僕と母親の不穏な空気を察して問い掛けてきた。
「…どう、したんですか?」
「ああ、祐実さん、お帰りなさい。漣がね…」
「もういいよ!!」
祐実おばさんに、スマホを欲しがっている事を知られたくなかった。きっと颯祐にバレてしまう、さっきのメールの件で欲しがったと、颯祐に知られたくない。僕はそう言い捨てると自分の部屋へ急いで戻った。漸く止まった涙がまた、溢れてきた。
颯祐が僕の知らない所で、知らない誰かと繋がっているのが耐えられなかった。
颯祐は僕のものだ!
ベッドに突っ伏して、泣き続けた。
夕飯だと、母親が声を掛けて来た。食欲なんて無い、けれども今拒んだら、色々と訊かれてしまう事が嫌だった。
「うん」
そう応えてダイニングに下りると、祐実おばさんはもう家に戻っていて、母親だけが座っていた。
「今日は漣の好きな、お芋のポタージュがあるわよ」
母親がそう言いながら鍋を温め直す為に、椅子から立ち上がると、キッチンに向かう。
「お母さん、さっきはごめんなさい」
ひとしきり泣いて少し落ち着いた僕は、スマホは諦めよう、欲しいと無理を言ったのは無かった事にしたくて、謝れば、この話しは終わるだろうと思った。
「明日、スマホを買いに行きましょう」
「えっ!?」
母親の言葉にあまりに驚いて、椅子に座ろうとした腰を浮かせた状態で止まる。
「漣が我儘言う事、そうそう無いから。お父さんにはお母さんから話しておくわ」
「本当に!?ありがとう!お母さん!」
飛び上がる程嬉しかった。
もう、我儘なんて言わない!そう誓ってもいい位に僕は喜んだ。
その時には本当にそう思った、
そう思って、僕の望みを聞いてくれた事に感謝もした。
けれども、そんな我儘なんて
ほんのちっぽけな事だったと
大学二年生になった僕は思う
最初のコメントを投稿しよう!