昔日の想い

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 今までにこんな風に聞き分けの無い事を言ったのは、公立中学に通いたいと言った事位で、自分で言うのも何だけれども僕は『良い子』だった。  母親は驚いた顔で僕を見た。 「ただいま戻りました〜」  その時、祐実おばさんが買い物から戻ってきて、リビングにいる僕と母親の不穏な空気を察して問い掛けてきた。 「…どう、したんですか?」 「ああ、祐実さん、お帰りなさい。(れん)がね…」 「もういいよ!!」  祐実おばさんに、スマホを欲しがっている事を知られたくなかった。きっと颯祐にバレてしまう、さっきのメールの件で欲しがったと、颯祐に知られたくない。僕はそう言い捨てると自分の部屋へ急いで戻った。漸く止まった涙がまた、(こぼ)れてきた。  颯祐が僕の知らない所で、知らない誰かと繋がっているのが耐えられなかった。  颯祐は僕のものだ!  ベッドに突っ伏して、泣き続けた。  夕飯だと、母親が声を掛けて来た。食欲なんて無い、けれども今拒んだら、色々と訊かれてしまう事が嫌だった。 「うん」  そう応えてダイニングに下りると、祐実おばさんはもう家に戻っていて、母親だけが座っていた。 「今日は漣の好きな、お芋のポタージュがあるわよ」  母親がそう言いながら鍋を温め直す為に、椅子から立ち上がると、キッチンに向かう。 「お母さん、さっきはごめんなさい」  ひとしきり泣いて少し落ち着いた僕は、スマホは諦めよう、欲しいと無理を言ったのは無かった事にしたくて、謝れば、この話しは終わるだろうと思った。 「明日、スマホを買いに行きましょう」 「えっ!?」  母親の言葉にあまりに驚いて、椅子に座ろうとした腰を浮かせた状態で止まる。 「漣が我儘言う事、そうそう無いから。お父さんにはお母さんから話しておくわ」 「本当に!?ありがとう!お母さん!」  飛び上がる程嬉しかった。  もう、我儘なんて言わない!そう誓ってもいい位に僕は喜んだ。  その時には本当にそう思った、  そう思って、僕の望みを聞いてくれた事に感謝もした。  けれども、そんな我儘なんて  ほんのちっぽけな事だったと  大学二年生になった僕は思う  
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