想いが募る

1/5
前へ
/53ページ
次へ

想いが募る

(れん)、スマホ買うんだって?」  翌朝、颯祐(そうすけ)が学校へ向かう途中で、笑いながら訊く。  祐実おばさんから聞いたんだな、そう分かって気恥ずかしくなったが、答えは用意していた。 「うん、颯祐がクラスの子とメールでやり取りしてるのが楽しそうで、羨ましかった!」  満面の笑みを颯祐に向ける。  一瞬、真顔になった颯祐を不思議に思った。 「メールの友達、一番最初は俺な」  僕の頭に手を乗せて、微笑んだ。  ドクンッと胸が鳴る。  当たり前だ。颯祐と繋がりたくて、僕はスマホを強請ったのだから。 「うん、今日の夜、颯祐の家に行っていい?」 「ああ!待ってるぞ!」  なんて事だ!  こんな幸せがあるのだろうか?  スマホを買ったら、颯祐の家に行って、颯祐とメールでやり取りが出来るようにするんだ!目の前に颯祐がいなくても、颯祐と繋がる事が出来るんだ!  そう思うと、僕の歩く足はダンスをするように弾んだ。放課後になって、お母さんとスマホを買いに行く。早く今日の学校が終わらないかと、始まる前から待ち遠しかった。 「ここ、タップして」  友達登録をする為に、画面を指差した颯祐。言われた通りにあれこれして、颯祐からのスタンプが届いて、飛び上がって喜んだ。 「返信くれよ」  颯祐がニヤけた顔で見る。 『よろしくお願いします』というスタンプを送った。 「漣、クラスのヤツとメールするのか?」  今のところ、そんな予定はない。僕は颯祐とだけやり取り出来ればいいから。 「うん、明日、クラスの子と友達交換する」  そう言わないと、スマホを買った理由が成り立たないから、とりあえず答えた。 「何か、漣が知らない所に行っちゃうみたいで、ちょっと嫌だなぁ」  え?  それは僕が颯祐に思った事だ。  颯祐が僕の知らない誰かと、スマホでやり取りしているのが、途轍もなく嫌だと思う。 「そ、颯祐だってクラスの人とメールしてるじゃん」  顔が火照るのが分かった。 「じゃあ、俺が他の人とメールのやり取りしないって言ったら、漣もしない?」  片唇を上げて、颯祐は悪戯っぽい顔で僕を見た。…しない、と言ったら颯祐もしないでくれるのか?そんな思いが()ぎりながら、身体中から汗が出てきた。 「なーんてな、冗談、冗談!」  わっはっはと、大笑いをして僕の背中を叩いた。少し力が強かったので、前方に身体が動く。  冗談…か。  ズキンッと激しく心臓が音を立てた。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

671人が本棚に入れています
本棚に追加