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想いが募る
「漣、スマホ買うんだって?」
翌朝、颯祐が学校へ向かう途中で、笑いながら訊く。
祐実おばさんから聞いたんだな、そう分かって気恥ずかしくなったが、答えは用意していた。
「うん、颯祐がクラスの子とメールでやり取りしてるのが楽しそうで、羨ましかった!」
満面の笑みを颯祐に向ける。
一瞬、真顔になった颯祐を不思議に思った。
「メールの友達、一番最初は俺な」
僕の頭に手を乗せて、微笑んだ。
ドクンッと胸が鳴る。
当たり前だ。颯祐と繋がりたくて、僕はスマホを強請ったのだから。
「うん、今日の夜、颯祐の家に行っていい?」
「ああ!待ってるぞ!」
なんて事だ!
こんな幸せがあるのだろうか?
スマホを買ったら、颯祐の家に行って、颯祐とメールでやり取りが出来るようにするんだ!目の前に颯祐がいなくても、颯祐と繋がる事が出来るんだ!
そう思うと、僕の歩く足はダンスをするように弾んだ。放課後になって、お母さんとスマホを買いに行く。早く今日の学校が終わらないかと、始まる前から待ち遠しかった。
「ここ、タップして」
友達登録をする為に、画面を指差した颯祐。言われた通りにあれこれして、颯祐からのスタンプが届いて、飛び上がって喜んだ。
「返信くれよ」
颯祐がニヤけた顔で見る。
『よろしくお願いします』というスタンプを送った。
「漣、クラスのヤツとメールするのか?」
今のところ、そんな予定はない。僕は颯祐とだけやり取り出来ればいいから。
「うん、明日、クラスの子と友達交換する」
そう言わないと、スマホを買った理由が成り立たないから、とりあえず答えた。
「何か、漣が知らない所に行っちゃうみたいで、ちょっと嫌だなぁ」
え?
それは僕が颯祐に思った事だ。
颯祐が僕の知らない誰かと、スマホでやり取りしているのが、途轍もなく嫌だと思う。
「そ、颯祐だってクラスの人とメールしてるじゃん」
顔が火照るのが分かった。
「じゃあ、俺が他の人とメールのやり取りしないって言ったら、漣もしない?」
片唇を上げて、颯祐は悪戯っぽい顔で僕を見た。…しない、と言ったら颯祐もしないでくれるのか?そんな思いが過ぎりながら、身体中から汗が出てきた。
「なーんてな、冗談、冗談!」
わっはっはと、大笑いをして僕の背中を叩いた。少し力が強かったので、前方に身体が動く。
冗談…か。
ズキンッと激しく心臓が音を立てた。
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