想いが募る

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『おやすみ、また明日』  猫が寝ているスタンプが届く。颯祐は寝るのか、僕も寝よう、そう思ってベッドに入る。  嬉しかった。目の前に颯祐がいなくても、こうして繋がっている事がとても嬉しかった。  冬になり、颯祐の受験が近づくと『おやすみ』の挨拶は真夜中になり、待っているのに、いつの間にか寝入ってしまう僕は、「また寝てしまった」と思いながら翌朝『おはよう』と返す様になる。    颯祐は家に帰ると毎日受験勉強で、僕は勉強を教えて貰う時間など勿論無くて、でも傍にいたいから颯祐の隣で僕も勉強をした。邪魔にならない様に、ちゃんと気をつけて。  『天海学園』特待生のクラス受験、おそらく大丈夫だろう、と担任の先生からは太鼓判を押されていた様だけれど、「油断は出来ない」と颯祐は必死に勉強をしていた。  そんな努力を怠らない颯祐は、見事に合格をして春からは『天海学園』の高等部に進学が決まった。しかも新入生代表の挨拶をすると聞く。凄い!感服したが、ますます手の届かない遠くへ行ってしまう様な気がして、酷く寂しく思った。  そうして僕はまた、颯祐のいない学校で毎日を過ごす事になる。    高校に入学してからの颯祐は、今まで以上に輝き始めた。絵を描く才能も持ち合わせている。美術部に入ったと聞いた。沢山の画材道具が好きに使えると、嬉しそうに話す。そうか、中学の美術部は名ばかりだっだし、今までは描きたくても、道具が無くて描けなかったのかと思った。 「帰りが遅いのは部活してるから?」 「ああ、楽しいぞ。こうなると自分の道具が欲しくなるな」  最近は、顔を合わせずに終わってしまう日もあった。僕の寂しい気持ちを知らずに、楽しそうに話す。 「だから、アルバイトを始めようと思ってる」  絵を描く道具を買う為に、バイトを始めると言う。ますます颯祐と会えなくなると思って、僕の元気は無くなった。 「元気ないな、具合でも悪いのか?」  心配そうに僕の顔を覗き込む。 「別に…」  口を少し尖らせて答えると、 「今度の日曜、どこか出掛けようか?」 「本当にっ!?」  颯祐からの提案に、僕はあっという間に元気いっぱいになって、目を輝かせて応えた。 「元気、出たな」  眉毛をくいっと、口角と一緒に上げて、とんでもなく綺麗な顔で僕を見た。本当にドキドキして胸がキュッと締め付けられる。 「どこ行きたい?」 「どこでもいい!」  本当にどこでもいい。颯祐と一緒に出掛けられるなら、小さい時によく遊んだ、近くの公園でも構わなかった。 「漣の行きたい所に行こう」 「え〜、颯祐の行きたい所がいいよ!」  僕の顔はニコニコだった。  日曜日を思えば、颯祐と顔を合わせる事が出来なかった日も頑張って乗り越えられる、そう思える程、僕は浮かれた。
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