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日曜日。
五月の大型連休も終わり、新生活が始まった人達も落ち着いた頃で、街の中に流れる初々しい空気も普段の空気にすっかり馴染んできていた。
「どこ行こうか」
空は青空で、爽やかな風に心地良く吹かれながら颯祐が訊く。
「颯祐は?どこがいい?」
僕は嬉しすぎて顔がニヤけっぱなしで、少しだらしがない。
「うーん、じゃあ下見で画材道具が見たいから、付き合って貰っていいか?」
「勿論!」
画材道具を買う為、近いうちにアルバイトを始めると言う。颯祐が高校へ行ってから毎日顔を合わせる事が出来なくなって、寂しく思っていた所にアルバイトの話しで、酷く僕は落ち込んだが、こうして出掛けられるのならば、それも嬉しいと思った。
画材道具を見る颯祐はとても嬉しそうで、そんな颯祐を見ているだけで僕も嬉しくなる。
「ごめんな、つまんないよな」
「全然っ!そっ…」
颯祐の傍にいられるだけで幸せだもの!危うく言葉に出してしまいそうになって、慌てて口を閉じ、顔が熱くなった。
「ん?」
颯祐が不思議そうな顔をした。
「え、絵の具って、た、沢山の種類があるんだね!しかも凄い綺麗な色がいっぱいだ!」
しどろもどろして、汗を掻きながら絵の具を指して言った。
「だろ?でもこの綺麗な色を何色か合わせて、もっと綺麗な色が作れるんだぜ」
キラキラした目で言う颯祐が眩しい。
「あ、あっちに額縁あったよね?」
「ん?うん」
「ねぇ、颯祐、覚えてる?僕が颯祐から貰った、僕を描いてくれた絵。あの絵、大事にファイルに入れて飾ってあるんだ、ちゃんとした額縁に入れたいから、見に行っていい?」
「俺が小学校三年生の時に描いた絵?」
「そう!覚えてた?」
「恥ずかしぃーな。また新しく描いてやるよ」
「ううん!あの絵が…僕はあの絵が一番大事なんだ!」
そう言った僕に片眉を下げて、フーッと軽くため息をつくと
「ありがとな」
そう言って笑った颯祐が、好き過ぎた。
「あ、でもまた新しく描いてくれると、凄く嬉しい!」
新しく描いてくれると言った颯祐の言葉を、スルーしてしまうところで、慌てて言葉を続けた。
「ああ!」
颯祐が嬉しそうに応えてくれた。本当に嬉しい!もし、今また描いてくれたなら、どんな僕を描いてくれるのだろう、そんな事を思い浮かべただけで僕は嬉しくて胸が弾んだ。
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