序文 黒い城

1/2
前へ
/70ページ
次へ

序文 黒い城

人里から少し離れた断崖の上に、まっ黒な古城があった。 黒く塗られているのではなく、もともと城全体が、黒鉛のように黒いのだ。 巨大な建物なのに窓はほとんど見当たらず、空を刺すような無数の尖塔のまわりを、海鳥が飛び交っていた。 その殺伐とした景観のためなのか、それはもう長いこと、誰のものでもなく、誰のすみかにもなっていなかった。 人々がその地にやってきた時には、すでに忘れ去られた名なしの墓標のように、崖の上に佇んでいたのだ。 その古城に、どうやら何かいるらしい。 小国トゥミスの住人たちが、そのことに気づいたのは、最近のことだった。 はじめは、崖の上の草原で羊の放牧をしていた娘がこつ然と姿を消し、すぐにまた似たようなことが起こった。 そして一人、また一人と、住人たちが消えていった。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加