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序文 黒い城
人里から少し離れた断崖の上に、まっ黒な古城があった。
黒く塗られているのではなく、もともと城全体が、黒鉛のように黒いのだ。
巨大な建物なのに窓はほとんど見当たらず、空を刺すような無数の尖塔のまわりを、海鳥が飛び交っていた。
その殺伐とした景観のためなのか、それはもう長いこと、誰のものでもなく、誰のすみかにもなっていなかった。
人々がその地にやってきた時には、すでに忘れ去られた名なしの墓標のように、崖の上に佇んでいたのだ。
その古城に、どうやら何かいるらしい。
小国トゥミスの住人たちが、そのことに気づいたのは、最近のことだった。
はじめは、崖の上の草原で羊の放牧をしていた娘がこつ然と姿を消し、すぐにまた似たようなことが起こった。
そして一人、また一人と、住人たちが消えていった。
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