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 喜平は絵の依頼主である喜音家を訪ねた。山下町で外国人向けの雑貨を売る店で、櫛や簪など日本人好みの品も多くある。港も近いことから、母国へ帰っていく外国人への土産物としての意味合いもあるのだろう。実際、店の棚をのぞき込む外国人たちは、どこか浮かれた顔をしていた。  居留地にあるからといって、店の佇まいまで異国風になるわけではない。手代や番頭といった職制も昔ながらのものだし、客への態度も品より威勢の良さを押し出した風であった。  喜平は手代に言って依頼主である喜音家の店主に目通りした。五歳年上と聞いている茂蔵は、依頼の品をいつでも淡々と受け取る。白紙で渡さない限り、 「ご苦労」  と一言告げ、金を渡してくる。商人の端くれなのだから、もっと愛想よくしても罰は当たらないだろう。そんな感想が浮かぶのはいつものことだが、下手なことを言って機嫌を損ねても困る。両親もなく、頼りになる人もいない喜平にとり、仕事でつながった茂蔵は数少ない味方だ。 「また頼みます」  そう言って帰るのもお決まりのことだった。金をもらえれば長居の必要はない。店先へ戻ろうとした喜平を、茂蔵が呼び止めた。
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