虚弱少女の生きる意味

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4 「で、アイツがあまりにも日本史の先生の真似が上手いもんだから、クラスの皆が爆笑しちゃって。授業中にやってた訳だから先生に見つかっちゃったんですけどね。先生の説教中にもアイツは先生の真似をしながら受け答えするもんだから、また皆が大笑いしちゃって。先生も怒るに怒れなくなっちゃって……」 「アハハッ、何それ! 面白いですね、そのお友達!」 「まぁ、見てる分には面白いですけどね。巻き込まれる方は大変ですよ。その日本史の授業の一件も先生がキレたりとかは無かったけど、罰として連帯責任で宿題がめっちゃ出ましたし……」  今の私の病気の事を彼に説明し、「学校の面白い話を聞きたい!」と言ったら彼は私のワガママに快く応えてくれた。405号室に入院しているお友達のエピソードをおもしろおかしく話してくれて、私は生まれて初めて声を出して大笑いした。 「へぇ、面白いですね! やっぱり、学校って楽しい場所なんだなぁ。私もこんな体じゃなかったら、学校に行って伊佐里くんが聞かせてくれたような体験をしてみたい……」  そんな私の言葉に彼は申し訳なさそうな顔をした。 「ごめんなさい……。魚躬さんの病気の事も考えずにペラペラと」  私は慌てて首を横に振った。 「あ、いいんです! 本当に気にしないで! 私の方から話してってお願いしたんですから。それに伊佐里くんのお話のおかげで生まれて初めて笑えたから、本当に楽しかったです! 伊佐里くんには感謝してます。ありがとうございます」 「いえいえ、こんな話で笑って頂けたなら僕としても嬉しいです。こちらこそ、楽しい時間が過ごせました。ありがとう。……っと」  彼が急に立ち上がって、ポケットからスマホを取り出した。どうやら405号室の友人から連絡が来たらしい。 「あ、そういえばアイツの事を忘れてた。『まだ来ないのか』って連絡が来てるな……」  その言葉にハッとして、私は時計を見た。時刻は午後4時半。一時間近くも喋っていた事になる。しかも、面会時刻は午後5時で終了なので、あと30分しかない。 「ごめんなさい! 私が引き留めたせいでお友達のお見舞いの時間が無くなってしまって……」  久しぶりの話し相手だったので浮かれていた。さぞかし迷惑だった事だろう。初対面の相手に嫌われるんじゃないか。それでなくても、本当に悪い事をしてしまった。不安と罪悪感が一気に押し寄せ、居ても立ってもいられなくなった。だが、彼は笑顔で 「いやぁ、見飽きている友人に会いに行くよりも可愛い女の子と一緒にお話できて嬉しかったですよ。魚躬さんさえ良ければ、また会いに来ても良いですか?」 と言ってくれた。凄く嬉しかった。嫌われてなかった。そして、また会いに来てくれる!  私は今までにない満面の笑みで 「えぇ、勿論! お待ちしてます!」 と言った。笑いながら手を振って、彼は病室から去っていった。  しばらくして、彼の先ほどの台詞の中にあった「可愛い女の子」という部分に今更ながら気付き、今までにそんな事を言われた事も無かったのでビックリして、恥ずかしくなって、顔がカァッと熱くなった。  照れ臭くなって頭から毛布を被ると同時にコンコンと病室の戸がノックされた。ハッとして扉の方を見ると、扉が開き、看護師さんが夕食を持ってきた。 「あら、どうしたの?」 という問いに 「いえ、何も」 と私は静かに答えた。
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