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「いやぁ、ハンス、助かった! あいつの説教、やたら長い上に面白くないし、すごく退屈だったんだよ!」
満面の笑みを浮かべて薄茶の真っ直ぐな髪に薄水色の瞳の同僚、ハンスの背をグレイは叩く。
すると、グレイと違って真面目で敬虔な信徒であるハンスは呆れたように息を吐いた。
「司祭にもなって、礼拝をサボって説教されるのグレイだけだよ」
「だって、礼拝って退屈な上に意味わからないんだよ」
「グレイ、そんなこと思ってても言わない方がいいよ」
口を尖らせるグレイをハンスは咎める。
「わかっているよ。ちゃんと周りは確認している」
グレイの考えはここ、教会では異端だ。親しい者以外に聞かれると面倒なことになるのは必須だ。
「そういう問題じゃないよ。司祭が『礼拝なんて意味わからない』とか言うことが問題なんだよ」
「仕方ないだろ。少なくとも俺は信心深くて教会に所属しているわけじゃないし」
グレイやハンス、教会に所属している者の大半は回復魔法が使える。というより、回復魔法が使える者は教会に強制的に所属する決まりなのだ。
回復魔法を使えるために教会に所属する者には、信仰心が低い者も中にはいる。だが、グレイのように表に出すことはなく、表面上信仰しているフリをしている。
いや、おそらく所謂「敬虔な信徒」の中にも信じているフリをしている者も多いだろう。そのくらい、この「神」の言うことは人間や教会の者に都合良く作られて過ぎている。
そんな腐敗臭が漂う空間が我慢出来なくて、グレイはついつい反発してしまうのだ。
「......ちょっと、どこ行くつもり?」
とりあえず、部屋に戻ろうとしたグレイを、ハンスが慌てて呼び止めた。
「......まさか、枢機卿が呼んでいるって本当なのかよ?」
「なんで僕が嘘をつかなきゃいけないんだい?」
呆れるハンスを見て、グレイは大きくため息を吐く。
「なぁ、それ、すっぽかしちゃダメなのか?」
「ダメだよ。大人しくついて来て」
渋々ハンスについて行きながら、グレイは首を傾げる。
(枢機卿が、俺に何の用なんだ?)
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