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グレイたちはシンプルだが高級感の漂う一室に来た。
そこにいたのは白髪が目立つ赤銅色の髪を灰色の瞳をした壮年の男だった。この男がマヌーサ枢機卿だろう。
「よく来たね。君がグレイ君かい?」
柔らかな笑顔を浮かべて、マヌーサ枢機卿はグレイを見た。
「はい、そうです」
グレイは口調は丁寧だが憮然として答えた。マヌーサ枢機卿の意図がわからないため、警戒しているのだ。
「そんなに固くならなくていいよ」
グレイの態度を緊張のためと誤解した枢機卿は苦笑する。
「……それで、俺になんの用ですか?」
グレイもさすがにあからさまだったかと、少し渋い顔をした。
「ふむ、実は近々勇者を選定しようという動きが各国にあるんだ」
「勇者……ですか?」
それがどうしたのだと、グレイは内心首を捻る。剣など持ったことのないグレイに聖剣を持つ勇者は無理だろう。
枢機卿はグレイの目をまっすぐ見つめる。
「その際、君に勇者と同行して欲しいんだ」
「……は?」
グレイはポカンと口を開けた。
「……えーと、今まで勇者に同行した者の話なんて聞いたことがないのですが?」
「そうかもしれない。だが、万が一のことを考えて、優秀な回復魔法を使える者を同行させるのは無駄にはならないと思う。
そしてグレイ君、君はとても優秀な回復魔法の使い手だと聞いている」
確かにグレイは回復魔法が得意だし、魔力もどうやら同期よりも多いようた。だが、それでも腑に落ちない。
「俺よりも優秀な者はたくさんいると思いますが? ザキ司教とかホイミ司祭はどうなんです?」
グレイは有名な2人の名前を出す。
噂によると、ザキ司教は心臓が止まった者を回復させたことがあるそうだ。ホイミ司祭は腕が取れたものをくっつけることができたとか。
グレイにそういった事例に遭遇した経験がないだけかもしれないが、そういった者と比べると自分ではいささか力不足ではないだろうか?
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