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嫌いな夏
私は夏が嫌いだ。
それは勿論、暑いのが苦手だからというのもある。
肌を焦がす強い日差し、重さすら感じさせる程の湿気。
そのどれもが好きでは無い。
だがそれ以上に夏が嫌いな理由がある。
それは五年前の事だった。
当時大学生だった私は、友人数名と共に沖縄へ旅行に行っていた。
観光地を巡り、綺麗な海で遊んだ後に肝試しをしようと云う事になり、私たちはそのその場所に足を運んだのだった。
そこはかつて太平洋戦争の終盤、沖縄戦において市民が集団自決をしたと噂されている防空壕の跡地だった。
私たちは遊び半分の軽い気持ちでそこに足を踏み入れ、そして奇妙な体験をした。
柵によって封鎖されているところを乗り越え、防空壕の中へと入る。
すると、不意に嗅いだことのない奇妙な臭いを感じた。
土や草の臭いに混じって花火をしたときに嗅いだことのある火薬の臭い。それから何かが腐った様な変な臭い。
それらの臭いを知覚した瞬間、周囲の景色がプロジェクションマッピングの様にがらりと変わり、目の前に非常に血なまぐさい光景が現れた。
飛び交う砲弾、銃声、怒号と叫び声。
皆銃を持って戦っている。乾いた様な大きな音が鳴り響き、突然人が後ろに仰け反ってそのまま動かなくなったり、人が大勢いる場所が急に爆発してバラバラに千切れた手足が辺りに散らばったり。見た事のない恐ろしい光景を私は目の当たりにした。
戦争の風景だ。これは間違いなく沖縄戦の風景だろう。何故こんなものを私は見ているのか理解しがたかったが、とにかく目を覆いたくなる様な酷いものだった。
私たちは急いでそこから離れようと走り出した。こんなもの見ていられない。
ずっと走っていると不意に先頭を走っていた友人が足を止めた。
何をしていると怒鳴ったところ、青ざめた顔をして友人が前方を指さした。
そこには正に集団自決しようとしている大勢の人たちの姿があった。
彼らはガマと呼ばれる洞窟の中におり、一人の男が積み上げられたの布団に火を付けた。炎と煙がガマの中に充満するとみるみる内に一人、また一人と苦しみだした。
苦しそうに喉を押さえ、大きく口を開いてもがき苦しむ。身体をジタバタと動かし、そこから逃れようと這いつくばって動こうとする。
そしてその場にいた多くの人たちは事切れてしまった。
それから幾度か場面が切り替わった。手榴弾や拳銃を使って自殺する者、自らの子供を手持ちの刃物で殺害する母親。
みんなで死のうと呼びかける人々。
そして気がつくと私たちはホテルの前に立っていた。
あれはいったい何だったのか。何故私たちはあの様な体験をしたのか。
それは分らないが、その日を境に私は夏が嫌いになってしまったのだ。
夏の暑さを感じる度にあの光景が脳裏をよぎる。
そしてあの様な戦いを引き起こしてしまう人間が恐ろしくなってしまったのだった。
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