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「え、ついに気付いたんですか?」  彼は私を見つけると開口一番にそう言った。  ぱたぱたぱた。雨音が聞こえる。向かい合う私たちの間にはぼんやりと赤信号が浮かび上がっていた。 「何によ」 「今日は雨が降ってる、ってことに」 「そんなの朝からわかってたでしょ」 「じゃあそっちですか」  彼は視線を持ち上げる。そして私の頭上を指差した。 「雨の日は傘を差したほうがいい、ってことに」  私はビニール傘を差していた。腰にではなく、頭上に開いて。  今日も小雨だった。  風もなく、雨粒も細く、静かに降っている。この雨脚ならいつもの私だったら傘なんて差していないだろう。  それでも今日は差していた。そして、彼を待っていた。 「そっちじゃないよ。私が気付いたのは」  傘の柄をぎゅっと握る。自分の役割を誇るように、透明なビニール傘は私に降りかかる雨粒を防いでくれている。 「お礼を言ってなかったな、って思って」 「お礼?」 「そう、感謝の気持ち」  雨の向こうに彼がいる。  その雨音をかいくぐるように私は感謝を告げた。 「ありがとう。いつも私に傘を差してくれて」  
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