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 気が付いたのは昨日の別れ際だ。  薄闇の中で黒いジャケットではわかりにくかったが、彼の左肩は濡れていた。私に傘を寄せた分、はみ出てしまったのだろう。  私が晴れている間、彼には雨が降っていた。  君の空も晴れてほしい。自分でそう言っておきながら、彼の空を雨にしていたのは私だった。   「でももう大丈夫だから。ほら傘もあるし」  私はくるりと傘を一回転させる。水滴がいくつか舞った。  雨音が聞こえる。今日も雨だ。世界のどこかでは晴れてるのかもしれない。  でも私は、今ここを晴れさせたいのだ。 「ありがとうね」  もう一度お礼を言う。  彼と話しているのは楽しかった。名前も知らない彼との時間が好きになっていた。ずっと私のものにしちゃいたいくらい。  けれど、それは彼の空を曇らせる。雨を降らせる。  ……そんなの続けちゃ、駄目でしょ。  私がいくら願っても、彼の空が晴れることはないのかもしれない。  彼はこれからも私のように雨が降りかかる人の隣に立って、その雨を半分だけ引き受け続ける『誰か』になるのかもしれない。  でも、それなら私は傘を差そう。自分の手で、自分の傘を。  優しい彼がもう私の隣に立ってくれなくなるとしても、ちゃんと伝えなきゃ。  君のおかげで。   「私の空は晴れたよ。平和だ」  信号が青になる。進んでいい、と許される。  それぞれの道を進みなさい、と言われている気がした。
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