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「雨の音って()んでるときに聞こえるんですよね」  輪郭のぼやけた赤信号に照らされた彼はこちらにビニール傘を寄せた。頬に降り掛かっていた小雨が遮られ、ぱたぱたと傘を叩く。  なるほど確かに、と私は思った。 「嵐ならさすがに聞こえるけど、小雨だとそうかもね」 「そうなんです。雨って意外と静かに降るから」 「じゃあ雨の音が聞こえてるときって案外幸せなのかな」 「いいこと言いますね」 「雨の音が聞こえなかったら気付かないうちに結構濡れてたりするしね。それは不幸だ」 「あなたは気付かなさすぎですけどね」  透明な傘にぶつかるいくつもの雨粒を眺めて、彼は薄く笑う。  分厚い雲に覆われた薄闇の中では、まるで傘の上に雨粒が突然姿を見せたかのようにも思える。 「ほら結構降ってる。やっぱり差さないんですか、傘」  彼は視線を私の手元に向ける。私は右手にある畳まれたビニール傘を握り直した。  それを見た彼は苦笑して、その視線を雨に濡れた横断歩道に戻す。 「まあいいですけどね。今だけは僕の傘を貸してあげます」  視界の端に映り込んでいた青信号が点滅する。  左側に立つ彼の背景が暗くなり、明るくなり、それを何度か繰り返したのちに赤色に変わった。 「いつも通り、赤信号が晴れるまで」
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