2人が本棚に入れています
本棚に追加
「これは?」
訝しげな顔をして教員が尋ねてくる。
生徒会長は説明した。
「花開学院の生徒から集めた署名と、その署名を集めた背景を説明した文書及び参考資料が入っております。」
「……具体的には? それもわからずに理事長に渡すわけにはいきませんよ。」
教員の言葉に高等部の生徒会長がふっと小さくため息をつく。
「そうですか。明藍にとってあまり名誉なことではないでしょうから、できれば口頭説明はしたくなかったですが。」
生徒会長は、そう言って優里亜に目配せした。
「この中の署名は、明藍のとある生徒から、数々の被害を受けた花開の生徒やその目撃生徒から集めたものです。」
優里亜はいつものように冷静な調子で口を開いた。
「その生徒の名前を明かすことはここではしませんが、花開の生徒は、ここのところ、その生徒に悩まされています。
具体的に言えば、突然体当たりされる、心ない言葉を投げかけてくる、突然声をかけられて攻撃的に絡まれるなどですが、署名だけではなく、いつどこで具体的にどんなことをされたのかということをまとめた書面も入っています。」
教員らは心当たったのか、表情を険しくした。
「一方で、花開の生徒たちの間で、困っているときに親切に、しかも押しつけがましくなく助けてくれる明藍の生徒のことも話題になっています。
そのような模範的な生徒こそ、明藍にふさわしいと思われますが、先ほどあげた悩まされている生徒は、明藍の名を地に落とすような行為を重ねています。
ですから、その生徒にきちんと指導していただきたく、そちらの封筒を用意させていただきました。」
「何を勝手なことを……。このようなものを理事長に渡すわけがないだろう。理事長は忙しいんだ。
もしも本当にそのような生徒がいるのだとすれば、私たち教員が指導するべきだろう。いるのだとすれば、だが。」
憤慨しているような表情で、最初に声をかけてきた教員がそんなことを言ってくる。
そんな問題生徒はいないとでも言いたいようだ。
「……誠実にご対応いただけない場合……。」
優里亜は教員らから視線を外して辺りを見回す。
狙い通りの行動を取っている明藍の生徒を複数人見つけた。
「どうやら生徒さんの中で、今のやりとりを動画で撮っている方たちがいらっしゃるようですね。
SNSに拡散されるということも起こりうるかと思いますが。
他校の生徒がこれだけの人数で真剣に訴えたことを取り合わないなんてことが広まれば、明藍の評判はさらに下がることになりますよ?」
「脅す気か?」
「まさか。起こりうる事実を申し上げただけです。」
優里亜はそこでにっこりと微笑んでみせた。
「厳正に対処する。」
苦虫を潰したような顔をして、教員はそう答え、周囲で見ていた明藍の生徒たちが小さく拍手した。
「親展、と記載していることにもご配慮いただければ助かります。」
中学部の生徒会長が言う。
親展、は、宛名の人しか開けてはいけないという意味だ。
きちんと理事長に渡すよう、念押ししたようなものだ。
優里亜たち三人は、深々とお辞儀をし、後ろに控えていた花開の生徒たちもそれに倣う。
そして、またセーラー服の集団は、明藍の正門に向かって颯爽と歩いて行った。
そんな集団を追いかけ、優里亜に向かって「優里亜ちゃん、すげーかっこよかった、やるじゃん。」と声をかけてきたのが、優里亜の兄の親友で、優里亜の思い人だったのは、また別のお話だ。
最初のコメントを投稿しよう!