2人が本棚に入れています
本棚に追加
7 告げちゃったんだ
「待てよ!」
あのままの勢いで駅を突っ切り、塾の前も通り過ぎ、自分の家の方に向かってがむしゃらに走りつつ、さすがに疲れてきてスピードが落ちてきたとき、後ろから私に声をかけてきたのは坂下だった。
「な、なんで。」
私は息がすっかり上がってしまって、立ち止まってへたりこむ。
「大丈夫か?」
坂下も息が上がっているみたいだけど、私よりは余裕そうだ。
体力差があるんだな。
小学生の時とは違う。
私は黙って頷くと、何とか立ち上がった。
「追いかけてきたのが俺じゃ、不本意だろうけどさ。
青柳の名誉のために先に言っておくと、真っ先に追いかけようとした青柳のことを引き止めたのは、りりーずの理真だからな。
そんでもって、俺にちゃんと話してこいって、命令したのもあいつ。」
ちゃんと話してこい? 何のこと? わけがわからない。
「というわけで、ちょっと話につきあってもらいたいんだけど、この辺で話しやすいところ、ない? それとも駅の方に戻る?」
「……近くのバス停の前にベンチあるから、そこでいい?」
「あぁ。そういえばあったな。花開に通う生徒たちが乗ってたバスの路線のとこな。」
坂下は元花開生だけあって、すぐにぴんと来たみたいだ。
ベンチまでは無言で歩いた。
その間に呼吸を整えることができた。
坂下が何を話したがっているのかわからず、そのことをぼんやりと思った。
理真がちゃんと話してこいと言ったってことは、坂下が何を私に話さないといけないかを知っているってことだ。
それもどうしてなんだろうと思った。
目的地に辿り着き、二人してベンチに座ったと思ったら、坂下がおもむろに立ち上がり、側にある自販機で買い物を始める。
走って喉が渇いたんだろう。
「ほら。」
戻ってきた坂下は、私にも1本ペットボトルを渡した。
「え? 何?」
「あれ、好きじゃなかったっけ?」
渡されたのはオレンジジュースのペットボトルで、確かに私はオレンジジュースが好きなんだけど。
坂下に話したこと、あったっけ?
「ううん。好きだけど。いいの?」
「あぁ。」
「……ありがとう。」
坂下は自分で買ったコーラのペットボトルを開けて飲む。
それを見て私も戸惑いながらもオレンジジュースの蓋を開けて、一口飲んだ。
そうして初めて喉が渇いていたんだと気がついた。
さっき全力で走ったってこともあるし、その前には、明石に向かって随分言いたい放題やっちゃったもんね。
「あのさ。」
坂下はしばらくまた黙っていたけど、言いにくそうに口を開く。
「ん?」
「……花開の時は、あんな呼び方したり、いろいろキツいこと言ったりして……ごめん。」
坂下はちょこんと頭を下げる。
そんなことを言われるとは、これっぽっちも考えていなかったから、私はどう反応したらいいかわからなくて、ただ口をパクパクさせる。
最初のコメントを投稿しよう!