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「本当はずっと、謝りたかったんだ。
最後には……泣かせちゃったし。
あの時に初めて俺、お前が俺から言われること、平気じゃなかったんだって自覚した。
遅すぎるよな。」
坂下はバカにしたように笑った。
それは私に向けてじゃなくて、自分に向けてなんだってことはすぐにわかった。
「許してもらえるとも思ってないんだけどさ。
でもやっぱ謝らないといけないことは謝っておかないと……って、これって自己満足か?」
「……気にしてくれてたんだ。」
思いつきもしなかった。坂下が後悔していたことなんて。
私を負かして、せいぜい満足して明藍に行ったんだって思ってた。
「そりゃ……。好きな子を最後に泣かせたっていうのは、こっちだって平気じゃねーよ。」
「…………。」
思考が止まる。今、さらっと変なこと言ってなかった?
え? 好きな子って、誰?
坂下はチラッと視線を私の方に走らせて、手で顔を覆って俯いた。
「あのな、小学生の時、俺はお前のことが好きで、だからちょっかいかけたかったし、関わりを持ちたかったんだよ。
あんなやりとりでも、お前と話ができてうれしかったし、お前も平気で言い返してくれてるんだって思ってたし。
だから、あんな顔して泣くほど傷ついてたって知ったのは、本当にあの日で……。
あー、ホント、俺、情けない奴。」
坂下はそこまで一気に言うと、顔を隠したまま黙ってしまった。
私も呆然としてしまう。
居心地の悪い沈黙が続く。
最初に耐えられなくなったのは、私だった。
「そ、そんなの、わかんないよ。
坂下は何故かわからないけど、私のことを嫌ってて、けんかふっかけてきて、嫌なことばかり言ってくる。
そんな風にしか思えなかったよ。」
「だよなー。」
坂下は顔は隠したままだったけど、ぐっと顔を前に向けた。
そしてゆっくり顔から両手を離して、自分の膝の上に手の平を乗せた。
「よく言うじゃん。好きな子にわざと意地悪する男子って、まさにあの頃の俺。
あんなんじゃ嫌われるだけだって、何度もりりーずに怒られてたし。」
「は?? 優里亜も理真も坂下の気持ち、気づいていたの?」
「っていうかさ、気づいてなかったの、多分、お前だけかもってレベルだから。」
坂下は呆れたように笑った。
「嘘。」
「嘘じゃない。当時、俺は随分男子にも女子にもからかわれてたからな。
でも、お前のこと泣かせて、卒業式迎えて、その時にはもう周りも何ていうか、あーあって目で見てた。」
「知らないの、私だけ?」
「だな。」
そう言われて思い返せば、確かに坂下も素直じゃないよね、とか、照れてるだけだから許してやってとか、意味不明な声がけを時々周りからされていたような気がする。
それって、そういうことだったのか!
目を見開いて固まる私を坂下はちょっとからかうように、軽く意地の悪い顔で見てきた。
「そんなんじゃ、今度はお前が好きな人の気持ちを逃しちまうぞ。」
「え?」
「青柳のこと、好きなんだろ?」
唐突な坂下の言葉に、私はかっと顔に熱が集まるのを自覚する。
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