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「らしくないなー。」
坂下は、今度は明らかに私に向かって呆れた顔をしていた。
「思ったことは素直にストレートに言える。それってお前の強みだろ。
そりゃさ、それで失敗もしてたの、知ってるし、そもそも俺のせいでそういうところ、気にしてたのかなって思うけどさ。
でも、絶対強みにできるって。甲谷なら。」
「なんでそんなこと言えるの?」
「言えるさ。俺、甲谷のこと、ずっと見てたんだから。
オレンジジュースが好きだって知ることができるくらいにはずっと。」
坂下はちょっと顔を赤くして、でも初めて見る優しい表情を私に向けた。
「甲谷がまっすぐに正しいことを信じて突進できるところ、誰でもできることじゃない。
俺だったら、絶対に怯むし、ひねくれてるからまっすぐにぶつかるなんてできない。
だからすごくうらやましかったし、そういうところに憧れて好きになったんだ。」
そんなこと言ってくる坂下の方がよっぽどまっすぐじゃないかと思う。
その後で、坂下は急に何かに気がついたように、あ、と声を上げ、見慣れた意地悪な表情を作ってみせて続けた。
「俺が甲谷のことを好きだったのは、小学生まで。
今はさすがにそうじゃないから安心しろよ。」
「そ、そんなこと心配してない!」
即座に言い返すと、坂下はおかしそうに笑った。
「その調子。思ったこと、ぽんとぶつけてみろよ。青柳にも。」
坂下は、ベンチから立ち上がり、私の方に体を向けて見下ろした。
「俺の話は以上。ありがとな。話につきあってくれて。
……明石に立ち向かっていった甲谷、かっこよかった。
やっぱ、憧れるわ。俺も頑張る。」
すっと手を差し出される。私は反射的に坂下の手を取り、握手をする。
「さんきゅ。許してもらえるとは思ってないけど、謝れてよかった。
本当にごめんな。じゃ。」
坂下はくるりと背中を向けて歩いて行く。
私はとっさに立ち上がる。
「あ、あのさ、坂下! 謝ってくれてありがと。許すから。
それから、ありがと!」
自分でも何にお礼を言ったのか、わからなかった。
坂下は振り向かず、でも、手だけ上げて、ひらひらと振ってみせた。
坂下は……私が思っていたほど悪い奴じゃないのかもしれない。だったら、坂下の言うこと、もう一度落ち着いて考えてみよう。そう思った。
でもやっぱり勇気が出なくて、その日の塾は、体調が悪いって嘘をついて休んでしまった。
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