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「ねえ、今度は別のエラーが出てる」
「げ!」
1度対応すると、2度目3度目の要求が来る。顧客対応ではよくあることだ。
「あのさ、いい加減帰してくれる?」
「まだダメだよ。エラーが解消してない」
この調子だ。もはや敬語も止めた。
あれ以来、エラーが絶えず起こっている。最初の{heat}値を修正したら、今度は低すぎるとエラーが出た。
それを直すと、今度は{rain-f}値がまばらになった。一方で高すぎて、一方で低すぎると。要はバランスが悪いらしい。全体で同じ値になるよう調整すると、今度は{yield}値が下がった。かと思うと、{air-f}値が規定値を超え、{earth-q}値が異常値を示し、{l-above-sea}値と{a-desert}値が上昇スピードを増し、{n-orga}値が減少していく。
「ああもう、どうすれば満足なんだよ……!」
以前は自社が開発したシステムだったから仕様を知ることはできた。だが今は、他人が作ったシステムで、しかも唯一の関係者がまるで理解していない。
「うーん、僕も見よう見まねで作ったから」
そう、この『WOS』というシステム。制作者はこの男らしい。なのに仕様書も何も残っていない。
作っただけ凄いとはいえ、ロジカルなものを思いついたままフィーリングで作ってはいけないのだ。
プログラムの記述は、複雑怪奇に書き連ねられた『スパゲッティソース』になっていた。意味は……絡まったスパゲッティをご想像頂きたい。
「これは1個1個エラーを潰すより、ソースを整理して、もっと根本的な解決を図った方がいいな」
「そんなことまでしてくれるの? ありがとう」
男は、柔らかな笑みを向けた。
押しつけがましい性格も、このぐちゃぐちゃのソースも腹立たしい。だが結局、この”労い”に負けてしまうのだ。
ため息交じりに、エラーの起こった箇所からプログラムソースを辿った。辿るほど、驚かされた。
システムは信じられないくらい複雑な構造になっており、見たこともないほど膨大なデータが存在する。それらが密接に繋がりを持ちながら、大小様々な現象を起こしている。
データが増える度に後追いで適当に書き足していったのが丸わかりなのが残念だ。
「いったい何のシステムなんだ、これ?」
「君が思ってるよりもずっと大きなものを管理するシステムだよ」
「だったらサーバーじゃなくて、スパコンで管理したら?」
「それは見たことないしなぁ」
そう言うこの男は、システム以上に謎の存在だ。
男のことは諦めて、プログラムソースを眺めていた俺は、あることに気がついた。
「今まで起こってたエラーのほとんどに、この値が絡んでるっぽいぞ」
「どれ?」
男が画面を覗き込んだ。俺が指さしたデータを見て、ああ、と零す。
そこに書かれていた値の名は、『homo-s-s』。
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