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「ほもえすえす? 変な名前」
そう言うと、男は苦笑いを浮かべた。
「この値が、どう絡んでるって?」
「例えばこの{heat}の上昇値だけど、色んな値を計算式に取り込んでるんだ。{homo-s-s}が原因で上がった{c-dio}の値を取得してて……」
「つまり?」
「{homo-s-s}が{c-dio}の値を激増させてて、その影響を{heat}が諸に受けてる」
「なるほど」
男はそう言うと黙り込んでしまった。ちらちらと俺を見ているのは何故なのか。
「その{homo-s-s}が、いわゆる『バグ』ってこと?」
「まぁ、そうだな」
「消しちゃったらどうなる?」
「消すのは、どうだろう?」
俺が渋っていると、男は苦い表情を浮かべた。
「やっぱり、難しいよね」
「そうだなぁ。結構色んな所に影響与えてるみたいだから、パッと消しちゃうってのはちょっと……」
すると、男が目を瞬かせて俺を見つめ返した。
「それだけ?」
「それだけって……下手したらシステムが動かなくなっちゃうだろ」
「それは心配ない。もしやるとしたら、どれくらいかかる?」
「工数か? えーと……プログラムとデータベースの両方から関連箇所を削除するから……かなり手間取る」
「手間取るけど、君は出来るのかい?」
「まぁ出来なくはない」
「そうか……」
男は、再び考え込んだ。奇妙にも、それが少し悲しげな表情に見えた。かと思うと、次の瞬間には顔を上げた。
「じゃあ、やってみてくれないか」
やってみるなんていうことは本当はありえない。テスト環境なんてないのだから、ぶっつけ本番だ。
だけど俺は、頷いた。この男に抱いていた苛立ちよりも、信頼して貰える喜びが勝った。
「じゃあ……やるか」
俺は袖をまくり上げて、再び画面にかじりついた。
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