やっぱり神はサイコロを振らない

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 これほど慎重になったのは初めてかもしれない。  かの変数{homo-s-s}は、思った以上にたくさんの箇所に影響を及ぼしていた。大小合わせて見過ごせない影響を。  それらを一つずつ削除して、最後にデータベースから関連するデータを削除したら……思った通りの結果になった。 「エラーが格段に減ったな」 「うん、これくらいなら対処可能だよ。この{homo-s-s}が現れて以降のエラーの嵐に比べれば、想定内だ」  どんなに精巧に組まれたシステムでも、バグはゼロにはならない。作るのが人間であるし、使う側の状況だって変わり続けるのだから。  できるだけ小さなバグに抑え、ちまちま対処し続けるのが、俺のようなエンジニアの仕事なのだ。  先輩たちならもっと上手く対処したんだろうが、俺は俺でできる限りのことをしたと思っている。  この男のおかげで、そんな充足感を得られた。未だに、ここが何処で、今が何時で、この男が誰なのかわからないけど。  そんなことを考えていると、男は急に優しげな……そして悲しげな笑みを浮かべた。 「君には、悪いことをしちゃったね」 「何が?」  そういえば、こんな顔を前にも見た気がする。この作業に入る直前……俺にGOサインを出す時だ。 「何が……悪いことなんだ?」 「だって君たちの存在を、君の手で消させたんだから」 「……は?」  固まる俺を、男は不思議そうな目で見つめている。 「君、知らなかったのかい?」 「何を?」  心臓が、破裂しそうになった。  俺は何を知らなかった? 知りたいが知りたくない。知るのが、怖い。だが男は、俺に問われたからと事もなげに、告げた。 「この『WOS』は正式には『World Operation System』。文字通り、世界を管理するためのシステムだ」 「世界って……は?」 「最初に君が修正したのは、いわゆる平均気温の上昇と、局所的な酷暑について。それを下げたら今度は冷夏や極寒になった。世界的に雨量が減って水不足になったり、逆に大型台風が発生したり、海抜上昇と砂漠化が同時に起こったり、二酸化炭素とかも……」  男はペラペラ話し続けた。俺がよく耳にしていた地球上のありとあらゆる異常な現象について。それらを一つ一つ、俺が対処したエラーと結びつけていった。  嫌でも理解せざるを得なかった。  俺は地球の異常を直しては壊し、それを繰り返していたと言うことに。そしてそれらは、ある一つの結論に結びつこうとしている。俺が最も認めたくない、一つの結論に。  男は俺が耳を塞ぐよりも前に、事もなげにその言葉を口にした。 「そして君が処理した{homo-s-s}は、『ホモ・サピエンス・サピエンス』の略。地球上の驚異的なバグである人類を、君が、消したんだ」
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