一.

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一.

五歳のその日、私はひどい土砂降りの中で、目を覚ました。 「イオ!良かった!」 私を腕に抱き熱い(しずく)を落とす女の人。 ママ……じゃない、これは……誰? 「目を覚ましたか!」 私と女の人を囲む、知らない人たち。 誰? なんだか図鑑で見たことある……あぁ、そう、弥生時代の人みたい。 「まったくこんな日に雨滝(ウタキ)に近付くなんて!」 そうだ、私は家の裏山で、ぬかるみに足を取られて滝に落ちて……。 でも……ここは、何か違う。 「さぁ、神殿へ帰るぞ!イオは大事な巫女の身ぞ!」 神殿?イオ?巫女? 違う、違うよ、私はミワ。 令和の日本の、あまかみ幼稚園に通ってて、おうちにはパパとママと双子の妹のサナがいて、テレビとかスマホとか車とか、ヴァーチャル配信キャラのミミピピとか、エレベーターも自分で乗れちゃう、五歳のミワ。 「あ……み……げほっ!げほっ!」 声を出そうにもひどく咳き込み、 「あぁ、いいから黙っておれ!」 立ち上がった女の人が私を抱いたまま駆け出す。 「急ぎ湯浴(ゆあ)みの用意を!ヤタ、一緒に入ってやれ」 「はい……」 隣を走る私と同い歳ぐらいの女の子が答え、 「イオ、大丈夫、大丈夫、一緒、一緒、だからね」 心配そうにも優しく微笑んだ。
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