「運雨」

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
ボ、ボタッ、ボタ、ボタボタボタ、ボタ!ビチャッ、ビチャッ、ビチャ、ビチャチャ… 雨が屋根を叩く音に混じり、異質な音が混ざる。 田舎でのスローライフを始めたばかりの友人“K”は、強い雨が降る度に聞こえる “音の正体”を 今日こそ暴いてやろうと窓を開けた。 薄もやのかかった夕刻の風景の中、強い雨音の中で聞こえる音… ボタボタボタボタ…ビチャッ、ビチャチャチャ “移動している” そう思ったと言う。動物か?山に近い、この地ならではの話だ。自分の知識にない習性を持つ生き物がいるのかもしれない。 どっちにしろ、正体を確かめたい。庭に出ると、傘と懐中電灯を両手に持ち、屋根を照らす。 (見えないな…) 納屋に向かい、梯子を持ってくる。屋根の縁に架けると、懐中電灯を咥えて、滑りやすい足下に注意しながら、登った。 そして、屋根に頭を突き出すKを待っていたかのように、今までとは違う音が 響く。 「う~~~」 それが人の声だと認識した時、Kは梯子を急いで下り始める。 だが、間に合わなかった… “ズルルッ” と言う音と共に自身の眼前に、水に塗れたというより、グズグズに腐乱した逆さまの女性の顔が突き出される。 Kが悲鳴を上げる前に、女の口が歪み、汚水のようなモノが吹き出す。それを避けようと逸らした体がバランスを失い、彼は庭に落下し、意識を失った… 次に気が付いた時、女の姿は消え、雨も止んでいた。 「俺が見ちゃったせいか、あの日以来、雨が降っても、音は聞こえなくなった。海外のニュースとかで、ハリケーンがあった翌日とかに、魚とかあり得ないモノが飛ばされてくるって 話があるけど、アレもそうなのかもしれない。だとしたら、要注意だ。 強い雨が降ったら、何処の家にも、あの女が降ってくる。その可能性があるって事だ。 雨が降った時は、耳を済ませろ。屋根を叩く音に重なる異音に注意するんだ」 まだ梅雨の明けない、我が地元でそれをやる予定は、今の所無い…(終)
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!