蛇口から出てきたカッパに恋をしています

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 高校生活にも慣れてきた四月下旬。体育の授業が終わった直後、突発的な腹痛に襲われた美代は、やむを得ずカッパが出るという例のトイレを利用した。  トイレに入った時は周りを見る余裕がなく気が付かなかったのだが、手を洗うため洗面台に立った時に白い紙が視界に入った。三つ並んだ手洗い場のうち、一番左側――入り口側の蛇口を覆うように、「使用禁止」と印字されたコピー用紙が養生テープで貼り付けてあるのだ。その紙の右隅に、油性ペンで「カッパ」と書いてある。ご丁寧にきゅうりの絵まで添えて。誰かの落書きだろうか。この前使った時は「使用禁止」の貼り紙すらなかったはずだ。美代は首を傾げた。  美代はトイレの外で待っていてくれていた真衣に、何の気なしに喋った。 「カッパ、見つけた」 「えっ、うそ」  期待で目を輝かせる真衣の手を引き、トイレに戻り、貼り紙を指差した。真衣ははっきりと落胆の表情を浮かべ、「ただのいたずらでしょ」と言いつつも、ポケットに忍ばせていたスマートフォンで写真を撮った。 「でも、ネタとしては面白いね」  真衣がその場でフリック入力を始めたので、美代は首を傾げた。 「何してるの?」 「画像付きでSNSに投稿するんだよ」 「えっ、大丈夫かな。特定されない?」  美代が心配するが、真衣は笑い飛ばした。 「大丈夫大丈夫。私のアカウント、フォロワー少ないし、繋がってるの、うちの学校の人だけだから」  しかし、真衣の予想を裏切り、その投稿は拡散されて、ネットニュースにまでなってしまったのだった。
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