蛇口から出てきたカッパに恋をしています

　カッパブーム以降、誰も使いたがらなかったはずの例のトイレは、一種の聖地のようになっていた。まだ「カッパ」を写真におさめた人はおろか、見た人もおらず、本当に存在するのか定かではないのだが、一般客まで来訪しており、事務員さんが玄関で断っているらしい。対応に追われているのか、教頭先生がやつれた顔で廊下を歩いているところを美代はよく見かけた。

　トイレは頻繁にいたずらされるようになった。蛇口の下にカッパの指人形が置かれていたりするのはマシな方で、床まで水浸しになっていたり、洗面台がきゅうりの輪切りで埋め尽くされていたりするらしい。「らしい」というのは、美代が目撃したわけではなく、担任の先生がうんざりとした様子で語っているのを聞いただけだからだ。掃除しても誰かが汚すので、体育館脇のトイレは立ち入り禁止になった。