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立ち入り禁止の貼り紙が見えていないのだろうか、と思うくらい一切迷いのない動きで、真衣がトイレの扉を開けた。美代は罪悪感を抱きながら、周囲の様子をうかがい、コソコソと中に入る。
久しぶりに入ったトイレは、あの時以上に薄暗く不気味に感じられた。
前触れもなく、真衣が蛇口をひねった。
「ひっ」
美代の口から悲鳴が勝手に漏れた。
もったりとした粘性のある液体が一滴垂れてきて、真衣が手を引っ込めた。そして、前髪につけていたヘアピンを取り、落ちた液体につっこむ。持ち上げる。納豆みたいに糸を引いた。動画で見た液体と同じものなのかもしれない。
あろうことか、真衣はそれがついたヘアピンを自分の鼻に近づけ、においを嗅ぎはじめた。
「よだれみたいに見えるけど、無臭だね」
「何してるの……」
美代は涙目だった。真衣の行動を見るたび、ぴくぴくと頬をひきつらせていた。
「もう帰ろうよ……」
「なんで!? カッパの粘液かもじゃん。えいっ!」
美代が止める間もなく、真衣が蛇口を全開にした。
数秒待ったが、先ほどの液体以外に何かが追加で出てくることはなかった。
「帰ろっか」
真衣が苦笑する。
「ねえ、真衣」
美代は耳をすませた。
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