蛇口から出てきたカッパに恋をしています

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「何?」 「音、しない?」  ゴボゴボ、という音が美代の耳には聞こえていた。真衣が首を傾げる。 「しないけど」  その時だった。蛇口から大量の粘液が滴り落ちてきた。 「ひゃっ!」  跳ね返ったものが美代の頬に当たる。慌てて手の甲でこすった。 「何かいる」  真衣が指差す。その指は小刻みに震えていた。真衣が指し示している方向に目を向けると、半透明のかたまりが蛇口の下で膨らみはじめていた。中に「何か」がいると言われればそう見えてきた。美代は息をのんだ。この光景に既視感があった。前に動画投稿サイトで見た、馬の出産シーンだった。  かたまりは大きさを増していく。ぴちゃぴちゃという水音がする。半透明を突き破って、緑色の棒状のものが出てきた。先端には水かきのようなものがついている。  隣で真衣が唾を飲む音が聞こえた。 「頑張れ……」  美代は、手を組んで思わず呟いていた。  洗面台と同じくらいの大きさになったかたまりは、重力に耐えきれず、ずるりと外にこぼれ落ちた。  。そう。「出てきた」ではなく「生まれた」という表現がふさわしいと美代は思った。  かたまりがもぞもぞ動いて、半透明が崩れ出す。中から「何か」が姿を現した。  カッパだ。  大きさは洗面台にすっぽりはまるくらい。キャラクターのような可愛らしいものではなく、妖怪図鑑に出てきそうな、ヒョロっとしたシワシワのカッパだった。
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