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* シグナルをキャッチせよ *
***
ずば抜けた賢さもなければ、目を見張る運動神経もない。
羨むような人望もなければ、万人受けするような愛嬌もない。
そんな僕も一念発起。
高校入試を死ぬ物狂いで頑張った結果、晴れて進学校の合格を勝ち取った。
ただし、通学時間がべらぼうに掛かるけど……。
***
というわけで、春から片道2時間掛けて高校に通う日々が始まった。
たかが2時間、されど2時間。
雨の日も風邪の日も(敢えて風邪と書いたんだぞ!)──天気が悪い日も体調が悪い日も──通学に費やすのは、地味にダメージがある。
だけど、何も取り柄のない僕がやっと掴んだチャンスでもあるのだ。
絶対に3年間、頑張り続けたい。そう意気込んで通い続ける。
それにしても、朝の2時間はとても大きい。
近所の近高なら8時まで寝ても楽勝で間に合う。
だけど、今はダイヤの兼ね合いもあって、6時過ぎには家を出なければ遅刻確定。毎日、眠たい目をこすりながら駅に猛ダッシュ。たとえタイミングよく椅子に座ることが出来たとしても、乗り換え駅で寝過ごさないように気を付けなければならない。
ただでさえ、勉強の進み方がエゲツなくて、背伸びして入学した僕にとってはかなりキツイ。通学時間で体調を削り、身の丈にあわないレベルの勉強に必死に食らいつく。
とにかく留年回避に四苦八苦。遊んでいる暇なんてない。
もちろんバイトなんてもっての他、部活だって贅沢な時間すぎる。
だからと言って、通学と勉強ばかりの灰色の生活というわけでもない。
最寄駅から乗車する名前も知らない女子高生を見て、いつも刺激をもらっているから──え? 刺激って、何かって? そんなの恋に決まってるだろ!
いつも彼女を見るとドキドキと心拍数が上昇してる。これが恋じゃなくてなんていうんだ!
「……てことをさ。お兄ちゃんが言ってるんだけど、明らかに違うよねえ?」
「ああ、違うだろうなあ」
私の次兄は程よく賢く、適度な運動神経を持っている。
少々人見知りする性格ではあるが、邪険にされるような性格ではない。
市外にある進学校にも合格することが出来たのも、元々のポテンシャルによるところも大きいのだが……。如何せん、長兄のポテンシャルが高すぎるために次兄は昔から自己評価が低すぎる。そして、自分の変化にとても疎い。
「普通に睡眠不足だろなあ。朝が早いのに夜遅くまで勉強してるから、アドレナリンが出まくってドキドキしてるだけだろ。寝不足のドキドキと、恋を混同するとかアイツどこまで自己評価が下手なんだ……」
けちょんけちょんな次兄が哀れにもなってくるけど、仕方がない。
「まあ、普通は恋と混同はしないよね」
そこは同意できるから。
何はともあれ、次兄よ。健康には気を付けてくれたまえ。
そんな願いを込めながら、長兄と一緒に次兄の息抜き計画を立てはじめた。
【Fin.】
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