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ぽかぽかと差し込む春の陽気が眠気を倍加させていた。
あくびをかみ殺す。正直なとこ、この日本史の授業はつまらない。なにせ教科書の内容を教師がただ、喋っているだけなのだ。だから耳から耳へ聞き流している。それでちらりと眺めた隣の奴のノートの文字列にぎょっとした。
ー僕は人を殺めたかもしれない。
少し乱れた字でそう始まっていた。
一体何事だと思ってバクリと波打つ心臓を落ち着かせながら次の行を覗いて、なんだと胸をなでおろす。
ー何故ならパウルはピクリとも動かなかったから。
それでノートからその持ち主である原町に目を移す。その表情はいつも通りぼんやりしていて、やはり人を殺した告白をするようにはみえない。
隣の席だが俺は原町のことをよく知らない。なにせまだ高2のクラス替えの直後で、その自己紹介で文芸部と聞いたくらいだ。
文芸部か。そういえば来月の5月には文化祭がある。だからその原稿でも書いてるのかも。そうに違いない。
なにせ名前が変だ。
英語読みのポールならまだましで、パウルという名前はいかにも芝居がかった外国名だ。それに他にもシャザリンとか、名前と思しきカタカナが並んでいたから。
そうすると俄然、続きが気になってきた。なにせこの授業は筆舌に尽くし難く暇なのだ。
断片的に盗み見る内容では、どうも主人公は学校に通っているらしく、ひょんなことでパウルと諍いになったらしい。けれどもノートの半分は原町の腕の影に隠れて見えない。心持ち身を乗り出すと、バランスを崩してガタリと机が音を立てた。その音で振り向いた原町と目があう。目頭が隠れるほどのマッシュショートの隙間に揺れる目は明らかに狼狽え、パタリとノートは閉じられ目を逸された。
気まずい授業の後。とっとと帰ろうとしたけれど、原町の切羽詰まった声に呼び止められた。
「須走、俺のノート見たのか?」
「あ、うん、ごめん」
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