階段

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翔子は焦っていた。 もう時間がない。 今日はいつものヒールを履いて来なかったのは正解だった。 建物に着いて、エレベーターに乗ろうとしたら、知らない誰かが乗って行ってしまった。 待っている暇なんかない! 仕方ない、ワンチャンあるかも…階段を駆け上がる方を選ぶことにした。 6時までに入ればOKだ。 あと3分… 6階まであと3分で駆け上がれるだろうか? 日頃の運動不足を呪っている暇などない。 翔子は髪を振り乱し汗だくで6階の自動ドアの前まで来たところで倒れてしまった。 出てきた店員は「片足のつま先だけでも入っていて頂ければお売りできたのですが…残念ながら自動ドアの前でしたので、時間切れでございます」 翔子は、店員の言葉が遠のいて行くのを感じながら、でも心臓のドキドキの音がうるさすぎて完全に意識を失った。 翔子が、喉から手が出るほど欲しかったもの。 それは…今となっては高くて買えないもの。 この日、この店は、激安価格だったのだ。 それは…おふたつで300円のマヨだった。 そう、油も卵も値上げでマヨが高騰し、マヨラーの翔子はマヨが買えずに油分が足りず干からびそうだったのだ。 演技も加わり暫く倒れていた翔子は、同情を買い店員の好意でひとつだけ売ってもらえた。 久しぶりのマヨをひと舐めした翔子は軽快に階段を2段抜かしで走り下って行ったのだった。
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