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「お、坂本ーーど、どうした?」
社会科の教師の声も聞こえないし、教室中の視線が集まるのも気にならかった。佑香は後方ドア近くの自分の席から、スクールバッグを取って、再び廊下に出た。
廊下を走り、階段を下り、1階の裏口近くの廊下にたどり着く。ゴミ捨て場には、「燃えるゴミ」「燃えないゴミ」「プラスチックごみ」「金属類」とそれぞれラベルの貼られたダンボールが置いてある。
佑香はスクールバッグから双眼鏡を取り出した。黒くザラついたボディを握りしめる。
ぎゅと目をつむり、腕を振りかぶって、「燃えるゴミ」とラベリングされたダンボールの中に打ち捨てた。ど、と空の牛乳パックに当たったのか、双眼鏡が鈍い音を立てる。
佑香はその場にしゃがみ込んだ。腕の中に顔を埋める。
誰も、私のことを知らない。
そのままずっと、動けなかった。牛乳のすえた匂いが、薄っすらと漂っていた。
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