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「ありがとう。行きたい。」と口角を上げて答えると、絵里はほっとしたように相好を崩した。絵里のほうでも佑香に話しかけるのは勇気がいったらしい。
その日は先生方が重要な会議を行うため、すべての部活動を行わないようにとお達しが出ていた。絵里も希子も美術部で、普段から毎日部活動をしているわけではない。だがせっかくの機会なので遊ぶことにした、と下校途中絵里は佑香に語った。佑香を誘った理由については聞かなかったが、ひとりぼっちを放っておけなかったのだろう。
何と親切心に満ちた子だ、と佑香は心の内で絵里を哀れに思う。他の人間のことなど放っておけばいいものを。
2人と1人は寂れた商店街をゆっくり歩いた。佑香が物心ついた頃から、いくつの店がシャッターを下ろしただろう。小学2年生のときまであったたばこ屋も、小学5年生のときまであった八百屋も、今は赤文字で「売物件」と書かれた看板がかかっている。穏やかな春の風が吹き抜けても、商店街の活気が戻ることはない。空き缶がひとつ、カラコロと転がるだけだ。
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