4 アムトラック

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4 アムトラック

「屋根の上に猫が居るぞ」 「危ないからあっちへ行け」  駅員が棒を使って猫を追い払おうとすると、猫は背中の毛を逆立ててミャアと鳴いた。  口からオレンジ色のスーパーボールが落ちてきたが、誰も気付かない。  コンっ、と弾んだスーパーボールは汽車の中に転がり込んだ。  猫は逃げて行き、扉が閉まった。ニューヨーク行きのアムトラックはスルスルと駅を離れた。 「お母さん、これなあに?」  汽車の中で拾ったオレンジ色のボールを、ぼくがお母さんに見せると、 「それはスーパーボールよ。汚いから捨てときなさい」 て言った。  アメフトのスーパーボウルは有名だし知ってるけど、スーパーボールは知らないなあ。何だろう?  だけどよく弾むのが面白くて、ぼくは捨てずにこっそりと車内で遊んでいた。だって長旅は退屈なんだもん。  でもニューヨークに着くとお母さんに見つかって取り上げられた。 「返してよーっ」  お母さんの手から取り返したら、スーパーボールはぼくの手からスルッと離れた。  それからコンっ、手すりに当たって弾んだかと思うと、近くを歩いていた人のトートバッグの中に落ちていった。 「新しくて綺麗なの買ってあげるから、ね」 「ちえー」  新しいのを10個買ってもらおう。
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